4話 矢沢弘人 ②

 そんな7月のある日、ゆきが新しい携帯に電話をかけてきた。

たぶん、うちの親から聞いたのだろう。


「えいちゃん どうしたの?」

2ヶ月ぶりに聞く、優しい声だった。

「元気なの?」 

「あぁ」

そっけなく答えた。

「よかった。連絡とれないから心配してたんだ」


あまりにも、いつもと変わりない、のんきな ゆきの言葉にカチンときた。

俺がカチンとする立場じゃないのに。


「なぁ!!もう遅いよ!!もう終わってんだよ!!」

思わず声を荒げた。 

「……そう。そうなんだ……ごめん」

そう言って、電話は切れた。


ごめんって……何で、おまえが謝ってんだよ!!

謝らなきゃなんねーのは、俺の方なのに!!


それから、2度と ゆきから電話がかかってくることはなかった。

別れの理由も聞かねーのかよ。

浮気して!他に女つくって!って、責めたり文句言ったりしねーのかよ……


ゆき

ごめん、ごめん、ごめんな……


「弘人!!Hの途中で、他の女のこと考えてるんじゃないでしょうね?」

図星すぎて、ドキッとした。

「んなわけねーだろ!!」

「そっ?でも、弘人の成人式、やっぱついてきて正解だったな〜」

ウフフと笑った。

「なにが?」

「同級会、元カノ来てたの?

4年付き合ったってゆうHなしの元カノ!」

「そうゆう言い方すんなよ!」

わざと、煽ってんだろうけど、ムカッとした。

「じゃ、ゆきちゃんだっけ?来てたの?」

「あぁ。いたよ。喋んなかったけどな」

「ふーーん、やっぱ危なかったー!

私、迎えに行かなかったら、焼けぼっくいに火がついた〜なんてことになってたかも〜だもんね!!」

「なんねーよ!!もう、とっくに終わったことだ」

「そっ、じゃ〜いいんだけど!」


窓の外を眺めていた彩華が、意外と夜景きれいなのね。とかブツブツ言っていた。

と、思ったら、突然大声で

「えっ!!ってゆうか、なに!?すごいね!星!プラネタリウムみたいじゃない!!

これ、本物なの!?」

と、振り返って俺に聞いた。

「あぁ、星か。こっちじゃ、いつもこんなだよ」


そう答えたが、こんなにも綺麗だったのか……

あまりにも まばゆくて、直視できなかった。

この美しい星空を見る資格が、俺にはないような気がした。

この満天の星を見上げることは、もう俺には許されない。


ゆき……

1年10ヶ月ぶりに見たその姿は綺麗だった。

ゆきに会うのは、上京した時以来だな。

昔から、剣道の道着姿とか見てて、きっと着物が似合いそうだなと思っていたけど、成人式の振り袖姿、すごく綺麗だった。

真紅の振り袖がとても似合っていた。

あぁゆう色を選ぶんだって、普段の服では絶対に着ないような色で、意外だったけど、とても似合っていた。

髪につけた花の髪飾りも、花が好きなゆきに合っていて可愛かった。

真っ赤な口紅、ってゆうか、メイクしてるのも初めて見たけど、大人っぽく見えた。

ゆきの元気そうな姿を見れただけで、来て良かったと思った。

声をかけることはできないけど、ゆきが幸せになってくれればいいと、そう思った。


4年半付き合った彼女。

1年10ヶ月前まで、俺の彼女だった人。

今はもう、他人になってしまった。


真面目で真っすぐで、人には優しくて、自分には厳しい、頑張り屋だった。

純粋で汚れなくて、涙もろかった。

そんな ゆきを、俺はどれだけ傷つけて、どれだけ泣かせたのだろう……


同級会に遅れて来たゆきに、駆け寄りたかった。

抱きしめたかった。

でも、もう2度と、そんなこと出来ないことは、自分が1番よくわかっている。


部活の集まりの後で、ゆきがお金持ってないんじゃないか、そう思って見ていたら、やっぱり焦った顔してお財布のぞいてた。

そうゆう表情は、変わってないんだな。


「ね〜弘人〜!もう1回やろ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る