3話 矢沢弘人 ①

 「どうしたのー?暗いけど?」

彩華の声にハッとした。

「ちょっと、飲みすぎたかな」

「ね〜、私 道全然わかんないんだから!ナビしてよ〜!ホテルどこ?」

彩華がイラついた声で言った。

「すぐ近く。あっ、そこ左。2つ目右曲がって」

「私、弘人んちにお泊りしたかったんだけどなぁ」

甘えた声で言った。

「さすがに、うちの親びっくりしちゃうよ!

田舎の人たちだからさ。

あっ、そこの駐車場にとめて」


フロントでカギをもらい、エレベーターで7階まで行った。


部屋に入ると、

「田舎のホテルで、全然期待してなかったけど、キレイなホテルね!いい部屋じゃない!」

と言って、ベッドに寝転んだ。

「弘人!早くやろ!」

と、言った。


そんな気分じゃねーよ!!

頭では、そう思っていた。

なのに、俺のカラダは、彩華とヤリたい!そう思ってしまっている。

ジャケットを脱いで、彩華の上に覆いかぶさった。


 

 あの日から、俺は変わってしまった。

大好きだったゆきを捨てて、泣かせないと誓ったはずのゆきを裏切ってまでも、俺は彩華との快楽を選んでしまった。


大学に入学し、バスケのサークルに入った。

大所帯のサークルだった。

新歓コンパの席で、2つ先輩の彩華と会った。

すごく都会の大人の女性という感じだった。


ゴールデンウィーク、サークルの後、買い物に付き合ってくれと彩華に誘われた。

あちこちとショップをめぐり、疲れたから休みたいと言って、彩華がラブホテルに入った。

俺は、ためらったが、ラブホ前でもめるのも恥ずかしかったから、彩華の後ろを追って入った。

すべてが彩華のペースだった。

俺は、田舎者の高校出たての、ウブな童貞男だった。

ゆきがいたから、他の女と浮気することもなかったし、だから、ラブホテルなんて初めて入った。


年上の彩華の誘いに、完全にノックアウトされていた。

すげー!!セックスって、すげー!!

自分で抜くのと全然違う!

すげー、気持ちいい!!

俺は、彩華との快楽にのめり込んでいった。


彩華は、俺を束縛した。

携帯は新しいものに変えられ、今までの番号は、使えなくなってしまった。

6月には、俺のアパートの物を全部自分のマンションに運ばせて、アパートは解約して、彩華のマンションでの同棲生活が始まった。

彩華は何でも勝手に決める。

だけど、それが新鮮で、少し嬉しかったりしていた。


俺は、ゆきのことを秘密にしていたわけじゃなかった。

4年以上付き合ってる彼女がいますって言った。


「それって、付き合ってたって言えるの?

4年も付き合ってて、Hさせない女なんて、何が楽しくて付き合ってるわけ?

今日から、私が弘人の彼女になってあげる」

そう言った。


携帯も変わり、住所も変わってしまって、ゆきが心配しているだろうと思った。

でも、俺はゆきに連絡しなかった。

彩華と付き合いながら、ゆきとも付き合う。

遠距離だから、もしかしたら可能なのかもしれない。

だけど、そんな器用にゆきを騙すことはできない。

かと言って、すべてを伝えて、付き合いを終わらせることも出来ずにいた。



上京してこっちで暮らし始めて思った。

夜でも明るいなと。

夜中でも店はやっているし、遊ぶところはいっぱいあるし。

夜景はとてもキレイだった。

ゆきに見せてあげたいな。

そう思っていた。

でも感じる、よくわからない違和感。

空を見上げても星が見えない。

今日は、曇ってるのかな……

でも、そうじゃなかった。

これが、東京の夜空。

そこには、星がない。

実際にはそこにあるはずなのに、見ることはできない。

この夜空と同じように、俺の心も曇っていったのだろうか。

あんなに大切に思っていた ゆきのことが、そんなでもないように気持ちが薄れていった。

彩華の誘いを断ることも出来ずに、ただ快楽に溺れていた。

気持ち以上に体が彩華を求めている。

寝起きで朝から抱き合って、一緒に大学へ行ったりしていた。

ゆきのことを考えることも少なくなった。

まだ、3ヶ月、たったそれだけ離れただけだ。

なのに……俺は、変わってしまった。

こんなにも簡単に、こんなにもあっさりと変われるのか……

ゆきの笑顔のような、輝く満天の星の光は、東京の曇った俺の心には もう届かなかった。

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