2話 中野柚希 ②

 別れたのは、いつだったのか……


たぶん、1年半くらい前。

いつ終わったのかも よくわからない。


別れ話もしていない。

ケンカもしていない。

自然消滅みたいな感じだった。


高校を卒業して、お互いに別々の道を進むことになった。

私は地元の短大。

えいちゃんは、東京の大学へそれぞれ進学した。

遠距離恋愛になるけれど、不安はあまりなかった。

4年半も付き合っていたし、交際は順調でうまくいっていた。


それなのに、なぜ?

えいちゃんに直接聞くことも出来なかったから、理由は今でもわからない。

ただ、終わった。

それが現実で、唯一の事実だった。

思えば、上京するえいちゃんを駅で見送ったのが、私の彼氏だったえいちゃんを見た最後だった。

それが、最後になるなんて、思いもしなかった。



 同部会は全員集まった。

女、11人。

わいわいがやがや、楽しい飲み会だった。


同部会を居酒屋でやるなんて初めてだ。

みんな大人になったんだなぁと改めて思った。

生中を9杯頼んだ。

依子ちゃんと、青田はまだ19才だから、お酒飲むのはやめとくって、ジュースで乾杯した。

わたし、19歳の時ガンガン飲んでたな。あはは。


その途中、中学の同級生の正男と島くんが来た。 「おーー!!いた!いた!捜したぞ!」

「良かった!みつかった!」

と座り込んだ。

「なに?誰 さがしてたの?」

と、晶が聞いた。

「今さ、急な話だけど、4組の同級会やってんだよ!鯛屋で。

パラパラと集まってきててさ。

剣道部、どっかで飲んでるって聞いたから、呼びにきたんだ。4人来るだろ?」

「わかった!あとで行くね!」

晶が勝手に答えた。

「おー!じゃ、あとで絶対来いよ!鯛屋な!」

「待ってるわ!じゃ!」

そう言って2人は戻って行った。

同級会かぁ。えいちゃんも来てるのかな……

会いたいような、会いたくないような……


 同部会がお開きになったあと、私たち4人は鯛屋へ行った。

2階の座敷へ通された。

「わーすごい!」

「よく集まったじゃん!」

ざっくり20人以上いた。

「おっ!剣道部!おせーよ!」

「早く飲んで食べて、遅れを取り戻せよ!割り勘だから、飲まねーと損だぞ!!」

と中村が言った。

「え〜!私たち、もう飲んで食べてきちゃってるんだけどー!」 

まっ、いいから、いいから!と座らされ飲むことになった。

もうみんな思い思いに、バラバラになってお喋りしていた。

うちら、4人のところにも、入れ代わり立ち代わりお酌しに来てくれて、いろんな人と久しぶりのお喋りを楽しんだ。 


でも、えいちゃんが私たちのところへ来ることはなかった。

部屋の奥の方で、えいちゃんがしんちゃん、タケルくんと楽しげに飲んでいるのが見えた。


話は出来ないな。

私の方から、えいちゃんのところへ行くこともしなかった。

いまさら……だよね。


どうして?

あの時、なんで?

なんて聞いたって しょうがないしね……


「じゃ、そろそろお開きということで!お会計なんだけど、1人8000円ずつお願いしまーす!」

と、正男が言った。

「えーーーーっ!!8000円?マジで?」

びっくりした!飲みに行って8000円払うことってなかなかない。

ぼったくりバーか?知らないけど。

「私たち、来て1時間くらいしか経ってないんだけど、うちらも8000円なの?」

と、さとみが聞いた。

「うーん!わりー!割り勘って話だからさ!」と、中村が笑った。

「え〜〜〜!!!」

私とさとみ、棚部が声を揃えた。

「まっ!しょうがないよ!」

と、晶が軽く応じたから、あと何も言えなくなった。


私は、同部会だけのつもりだったから、一万円札と小銭くらいしか持ってきてなかった。

お財布の中には、同部会のおつりの6000円しかない。


「足りないや……」

「ごめーん!私も貸してあげられるほどないや。ギリだ!あと、電車代くらい」

と、さとみが申し訳なさそうに言った。

「私、ちょっと 正男に貸しにしてもらってくる」


は〜〜


下の階で正男はタバコを吸っていた。

「正男!ごめん。私、6000円しかなくてさ、悪いんだけど、2000円貸しといてくれないかな?」

と声をかけた。

正男は、えっ?と驚いた顔して、タバコを消した。

「中野!聞いてねぇの?中野の分はもう貰ったぜ!」

と言った。

「えっ?私の分って?」

「矢沢が、中野と自分の分って、1万6000円置いてったぞ!」

「えっ!!えいちゃんが?

なんで?だって、私たち もう……」

「別れたんだってな!マジでびっくりしたよ。

いいんじゃね。元カノの分、払いたかったんじゃね!あいつ。かっこつけてさ!」

「それで、えいちゃんは?」

「なんか、彼女が、あっ嫌かな、そうゆう言い方……

迎えが来たって。

ついさっき、帰ったわ」

「そう……ひとことも喋れなかったよ 私……」

「そっか、金はいいんじゃね!

貰ったってことで。

返さなくてもいい金だと思うぜ」

正男にしては珍しく真面目な顔で、そう言った。

「うん……」

「長かったのにな。

他に女が出来て別れちまったって?

あいつ、そう言ってたけど」

「そうなんだぁ……えいちゃんがそう言ってたなら、そうなんだろうね。

私は、なんだか知らないうちに そうなってただけだから」

「中野、2次会行かねーか?」

「ううん、もう帰るよ!さすがに、もう飲みすぎ」

「そっか、俺、あんま口堅くねーからさ、酒入ってるし、2次会行ったらおまえらの話しちまうかもしれねーけど」

「いいよ!事実だから!あっ、中野が彼氏募集中だから、誰か紹介してって、そう言っといて!」

「元気だな!」

「元気だよ!だって、別れてもう1年半以上経ってるもん!」

「了解!じゃな」


最近はもう、えいちゃんのことをあまり考えなくなっていた。

終わったことだ。

そう思うしかなかった。


駅まで、さとみと棚部と3人で歩いた。

「そう言えば、立花いなかったね」

「途中で帰ったらしいよ」

「田坂も、なんか急用だって、途中で帰ったみたいだよ。

途中で帰った田坂が5000円で、途中から来たうちらが8000円なんて、なんかムカつかな〜い?」

と、さとみが言った。

「えっ5000円だったの?」

「そうだってー!途中で帰った人、4、5人いて、みんな5000円でいいやってさ。

で、最終的にうちらがその人たちの分まで負担したって感じみたい。ひどくない?」

「だよねー!

まっ、しょうがないよ!なんて晶が軽く言うからさー、文句も言えなくなっちゃったけどー」

「ね〜!」

「あっ!電車きた!!」


楽しかった。

楽しい 成人の日だった。

お酒もおいしかった。


えいちゃんに会ったことは、どうでもよかった。

8000円の借りが出来ちゃったな……

私がお金ないの わかったのかな?

ただ、元カレとしてかっこつけたかっただけなのかな……


元カレ……か……

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