34話 中野柚希 ⑰

 文化祭が終わり、3日経った。


この3日間、私はえいちゃんと連絡をとらなかった。

3日も連絡をとらなかったことなんて、付き合ってから初めてだ。

電話がきても出なかったし、メールで今 大丈夫?ってきても、どうしたの?具合い悪いの?ってきても、返信しなかった。


何故だろう……

自分でも よく わからなかった。

ただ、えいちゃんと会いたくないような気がしていた。


やっぱり、キスのことがショックだったかな……


頭では わかっていた。

あのキスは、お芝居だって。

しかも、ほっぺにチュッてしただけ……

ガッツリくちびるにキスしたわけじゃない。

だから、大丈夫だよ!気にしてないよ!って言った。

ほんとにそう思ったから。


いや、ほんとに?


心の中は、モヤモヤしていた。


付き合って3年。

ケンカらしいケンカはしたことがなかった。

でもそれは、お互いに言いたいことを言わないで、我慢していただけだったのかもしれないな……


キス……

ショックと言えば、あの時の方がショックだったような気がするけど……



 中3 秋

 えいちゃんと私は付き合って1年が経っていた。

あっという間という言葉がぴったりなくらい、本当に早かった。

学校帰り、毎日春木公園で話をした。

よくこんなに話があるなぁってくらい、毎日暗くなるまで話をした。

一緒にいられるだけで楽しかった。


ある日、いつものように公園へ行くと、田坂と依子ちゃんがいるのが見えた。

向こうは、私達に気づいていなかった。


えいちゃんが、声をかけようかって言って、お邪魔じゃない!今日は帰ろって、私は言った。


その時、田坂が依子ちゃんを抱き寄せ、そして唇にキスをした。


カミナリが直撃したような衝撃だった。

動けなかった。

声も出なかった。


「お〜お〜やってくれるね〜朋徳くん!

俺たちも、そろそろ どう?」

そう言って、えいちゃんは私に顔を近づけた。


私は、ハッとして、猛ダッシュで走っていた。

きっと、タイムを計っていたら、自己新記録のタイムなんじゃないかってくらいのスピードで走った。

家まで、一回も立ち止まらずに走った。

倒れ込むように部屋に入ると、ワァーーーー!!と声を出して泣いた。


なんで泣いているのか……

田坂のことは もうとっくに諦めてたんじゃないのか……

何故こんなにもショックなのか……

私は、自問自答していた。


えいちゃんと付き合って1年。

毎日毎日幸せで、もう田坂を想うことはなくなっていた。

なのに……

なんなんだろう……

なんの涙なんだ?

えいちゃんのこと 置き去りにして……

えいちゃん怒ってるかな……


でも、次の日、えいちゃんはいつもと変わらなかった。

普通に接してくれたから、私も昨日のことには触れなかった。


 そっか……


私も、えいちゃんも、気まずくなりそうなことには触れないできたんだ。

だから、ケンカもしなかった。

だけど、言いたいこと我慢したり、聞きたいこと我慢したりしてただけだったのかな。

えいちゃんは、いつも優しくて、その優しさに甘えていたけど、えいちゃんの本音を聞いたことないのかもしれない。


この前、えいちゃんが何かにイラついて田坂にあたった時も、私にはイラついた態度は全く見せなかったし、理由を聞いても言ってくれなかったし。

えいちゃんは、私には本心を見せないんだ。

そういう私も、“物わかりのいい彼女” のフリをしてるんじゃないのか……

ちょっと!なに、他の女とイチャイチャしてんのよ!って思っても言えないし。


お芝居の中とはいえ、キスをしたえいちゃんに “こらーー!!ふざけんな!!” ぐらい言ってやればよかった……

心の中では、そう叫んでいたんだから……


えいちゃん、私のこと 本当はどう思ってるの?

私は、 えいちゃんのこと 本当はどう思ってるんだろう……

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