33話 矢沢弘人 ⑪
芝居が終わり、緞帳がおろされた。
舞台裏へ行くと、みんなが拍手で俺を囲んでくれた。
後藤が大きな声で、
「みんなお疲れ!!矢沢のおかげで大成功だったよ!ありがとう!」
と俺の肩を叩いた。
「ごめん!俺、台本にないことしちゃって!
早川さん!ごめんね!」
村娘役の1年の子に謝った。
「いえ、いいんです!ってゆうか、ありがとうございました!すごく嬉しかったです!」
と、顔を赤らめた。
「あーゆう感情がたかぶったアドリブはいいんだよ!
さすがに、文化祭で唇はちょっと問題ありってなるとこだったけどな。
ほっぺで良かった!
ほんと良かった!いい芝居だったよ!
みんな矢沢に拍手!!」
なんだろう この気持ちは……
やり遂げた、達成感ってやつなのか。
芝居に集中しすぎて、ゆきがどこにいたかもわからなかった。
でも、もちろん観てたんだろうな……
あのキスも
怒ってんだろな ゆき……
俺は急に不安になった。
こんなことが原因で、別れることにでもなったら、死んでも死にきれねーー!!
「ごめん!片付けもあるけど、俺ちょっとゆきに会ってきたい!!」
「あぁ行けよ!怒ってるかもな。
俺の台本で無理やりやらされたって言っとけよ!俺もあとで中野さんに謝りに行くよ!」
「ゆきに嘘はつけないよ。みんな、ありがとう!じゃ!またあとで!」
王子さまの衣装のまま、バスケ部のジャージを羽織って、俺は走って体育館を飛び出した。
ゆきを、捜して走った。
ゆきの教室へ行った。
道場へ行った。
が、ゆきはいなかった。
まさか、帰っちまったのか?そう思って、げた箱へ行ってみた。
あっ、あった!ゆきの靴はそこにあった。
と、いうことは、まだ校内にいるんだ!
いろんな人にゆきを見なかったか聞いた。
1人が、家庭科教室にいたよと言った。
家教!!華道部の展示してある教室か!
なんで気が付かなったんだ俺!早く気付けよ!!
走った。
いた!!
ゆきは、窓際の椅子に座って、1人で外を眺めていた。
肩で息をしながら、声をかけるのを戸惑った。
なんて、言おうか……
「ゆき!!」
「あっ!えいちゃん!おつかれ様!」
にこっと笑った。
「ごめん!!」
「なんで、ごめん?」
首をかしげた。
「ごめんな!俺、」
言いかけたところで
「あっ!キスのこと?もうやりすぎ!
ってゆうか、よく見えなかったけどほんとにしたの?フリ?
びっくりしたよー!」
「ごめん……」
「あ、怒ってなんかないよ。
えいちゃん、すごくかっこよかった!!
舞台の上のえいちゃんは、本当の王子さまみたいだったよ!
素敵な話だったね!ハッピーエンドでみんな幸せになれて良かったなぁって思ったよ!
えいちゃん、一生懸命練習してただけあって、すごくすごく良かったよ!
その話の中でのキスだから……
えいちゃんが浮気したわけじゃないしね」
「ほんと……ごめんな……俺、ちょっと芝居の中の王子の気持ちになっちゃって……
あれ、台本にはなかったんだけど……」
と、下を向いた。
「そうなんだ。
大丈夫だよ!えいちゃん頑張ったね!」
そう言って俺の手を優しく両手で包んでくれた。
俺の中でピーンて張りつめていたものが、ほどけていく感じだった。
「ありがと!ゆき!」
俺としては、ギュッと抱きしめたかったが、教室の中に、何人か華道の展示を見ている人たちがいたから、我慢した。
さすがに、人前じゃゆきが嫌がるだろう。
「あっ、ゆきのお華 見なくちゃ!どれ?」
「どれでしょうか?当ててみて!
あっ、2つあるの。
1つは、普通の型通りに生けてあるやつ。池坊の型でね。
それは、みんな似たようなもんだから、教えてあげる。これ!」
「そっか。きれいだな。やっぱお華のことは全然わかんねーな!
型が一緒なの?
花の種類が違うと全然違く見えるけど。
菊と百合と桔梗?」
「えっ!意外!えいちゃん花の名前知ってんだー!!」
「こんくらいは、一般常識だろ?あとは全然わかんねーよ!これとか!これとか!」
「それは、デンファレ。それは、アルストロメリア」
「これは、一般常識じゃないよな!?」
「あはは。たぶんね!
じゃ、もう1個の方の私の作品どれか当ててみて!」
ゆきに手を引かれて見てみると、教室の奥半分の方が華やかだった。
「先生が型を気にせず、自分の好きにやっていいって言うから、みんなこっちの方ばっかり頑張っちゃってね!
私もだけど。
全然華道じゃなくて、フラワーアレンジメント部になっちゃってる感じ。あはは」
色とりどりの花を使ったアレンジが20点くらい並んでいた。
どれも綺麗だった。
この中から、ゆきの作品を見つけられるのかな……
そう思いながら1つ1つ見ていった。
半分くらい見た時、
“これだ!!”
瞬間的にそう思った。
全体的に白い花をたくさん使っている。名前はわからないけど、大輪の真っ白い花、淡いピンクやブルーの小さな花。
それらを使った、ウェディングブーケだった。
「これでしょ!」
「すっご〜い!!なんでわかったのー?」
パァーっと明るい笑顔で俺を見た。
「だって、これ ゆきっぽいから!」
俺も笑顔で答えた。
当てられて良かった!
「ほんと〜?わたしっぽいの?これ。
えいちゃんすごいね!びっくりした。
じゃ、小野っちのどれかわかる?」
「これかな?」
テキトー。
「ブー不正解!のんちゃんのは?」
「これ!」
テキトー。
「ブー!不正解!なんだ、私の当てたの たまたま偶然なんじゃないの?」
「ゆき、俺は興味のない子のことは わかんないよ。
ゆきのことは好きだから わかる。
それだけだよ。」
「えいちゃん。ありがとう」
そう言って顔を赤らめた。
「ゆきのお華見れて良かった。
すっごくキレイだな。
このブーケ持ったところ写真撮っといて!
今、携帯置いてきちゃったからさ。
じゃ、俺、演劇部戻らなきゃ!片付け抜けて来ちゃったから」
「そう」
「今日は、一緒に帰れないわ!
明日は、一緒に帰ろう!」
「うん、わかった。じゃね」
「それでは、ゆき姫 愛してるよ!!」
「もう!ふざけないの!」
俺は笑いながら手を振って走って行った。
「よっ!王子さま!!」
廊下で、滝沢に会った。
「おっ!」
「すげー良かったじゃん!俺もおまえにホレそうになったぜ!」
ニタニタして言った。
「キモいこと言うなよ!」
まじで!
「それより、ゆきちゃん どうした〜!?怒ってんだろ〜!」
「それがさ、全然!
俺もまじヤベー!やらかしちまったー!と思って謝りに行ったんだ。
そしたら、全然怒ってなくてよー!『ごめん!』って言ったら、『何でごめん?大丈夫だよ!頑張ったね!』って言われたよ!!」
「マジか!!すげーな!ゆきちゃん!
なんかもう神レベルじゃん!
あなたのしていることは、私の手のひらの上ですよ!みたいな、お釈迦さま的な感じじゃん!
それか、あなたの罪も全部許しますよ!って、マリア様みてーになってねーか?」
「だな!ゆきが俺に本気で怒ったことって、たぶん1度もねーな!」
「マジでいい彼女だなぁ!俺もゆきちゃんにホレそうだなぁ!」
「バカ言ってんなよ!
俺、演劇部の片付けあっから行くわ!」
「おぅ!じゃな!」
良かった!!
全部、全部 良かった!!
文化祭 マジで 最高だな!!
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