31話 矢沢弘人 ⑩

 次の日

俺は、後藤とかなり熱く語り合っていた。

「なぁ、これ、王子さまさ〜 やな奴じゃねー?」

「おい!おい!おい!おまえがそんなこと言ってどうすんだよ!!」

「あっちも好き、こっちも好きの優柔不断な男みてーじゃね?」

「だから、そうなんないようにって、今 説明したんじゃん!

全然違うじゃん!超まじめな男なんだよ!

まっすぐなんだ!だからこそ悩むんだよ!

自分の気持ちと、置かれている立場に悩むんだ!で、自分の好きな人が幸せになって欲しいと願っている。純粋なんだよ!!」

「熱いな!おまえ!」

苦笑いした。

「とにかくさ、おまえがやってくれれば、十分魅力的だけどよ、とりあえず、チャラくならないようにだけ気をつけてくれよ」

チャラくならないように?

「じゃさ、もう一個質問!

これって、みんな幸せになったのか?

王子も村娘も、好きでもない人と結婚して、その相手の姫だって、村娘のダンナだって、本当の幸せな結婚じゃね〜んじゃね? 

それじゃーみんな不幸になってるような気がするんだけど」

「ぜんっぜん違うよ!!」

机に両手をダン!と、つき 立ち上がった。

「おまえ!わかってねーな!

結婚って、愛情100%対100%なわけじゃねーんだよ!

男が100%好きだったとして、50%ぐらいだった女も結婚したりするんだよ!

なんでかわかるか?

大きな愛情を注がれりゃ、ほだされるし、地位や金や、まぁいろんな事情で結婚ってするもんだ。男としては、100%好きな女と結婚できりゃ幸せだろ!

女は50%の相手だったとしても、100%の愛情で接しられたら段々と愛情も増えていくかもしんねーし、結婚の後から愛を育むこともできる。まっ、その反対もな。段々とお互いに冷めてくってのか、そうゆう場合もあるけどな。

だから!幸せか、そうじゃないかなんて、本人の気持ちの持ちようなんだ。

要は、今の状況に納得できているか、いないかってことだ!

この話の中の、王子も村娘も、姫も村娘のダンナだって、納得できてるんだ。

だから、幸せだと感じられる。

ハッピーエンドじゃん!!」

超早口で捲し立てた。

「ふけーな!」

あまりの迫力にあっけにとられた。

「ふけーんだよ!!演劇の世界は!!」

「後藤、おまえ、すげーな!恋愛経験が豊富なのか?」

「は?? まさか!あはははは!」

頭を掻きながら椅子に座った。


「わりー!わりー!

俺のは、文学や芝居やドラマの受け売りだよ!

実際の恋愛なんて、まぁ片思いくらいだな。

付き合ったこととか1度もねぇし。

あ〜〜〜〜だから!

さっきの話は劇の中の話な!

実際の恋愛には全く通用しないから。

矢沢は、すげーモテるし、彼女もいるし、ハハハなんか、恥ずかしいな俺!

おまえに恋愛語れる立場じゃね〜んだけどな。

わりーわりー、ほんとに俺、演劇バカだからさ!」

後藤は顔を赤らめた。

「いや!すげー、なんてゆうか、よくわかったよ!サンキュ!!」


本当に、目からウロコの気持ちだった。

恋愛について、こうもストレートに語る奴なんて初めてだったし、それが物語の中の話だとしても、さっきの話は自分とゆきのことにも言い換えられるなと思った。


付き合い始めた時点では、俺の愛情が100で、ゆきが50だったかも。

朋徳への気持ちの方が大きかったのかも。

でも、ゆきは、俺と付き合うことを選んだ。

そして今、ゆきの俺に対する愛情のパーセントは増えたのだろうか。


“幸せかどうかは本人の気持ちの持ちよう。要は、納得できているかどうか”……


幸せはもちろん感じている。

ただ、納得はできているのか?

ゆきは、朋徳に気持ちを伝えることなく諦めた。それを、本人は納得できてないんじゃないか。

俺も、卑怯なやり方だったとずっと心に引っかかっている。

卑怯だった試合を終わらせたい。

それが、納得するってことなのかもしれない。


 

 それから何日か、俺は演劇部での稽古を真剣にやっていた。

最初は、ただにこにこ笑っててくれればいいよ と言っていた後藤も、段々と注文が厳しくなった。

まぁ、あいつの真剣さはよくわかっていたから、こっちもそれに応えなきゃいけない!そう思っていた。

部員たちも後藤の指示通りキビキビと動いている。


俺は、演劇部って、幼稚園のお遊戯会の延長みたいなもんかと思っていた。

少し、文化系の部活を下に見ていたような気がする。

運動部ほどキツくないんだろ?って。

でも、実際は話を考えるヤツ、大道具、小道具を造るヤツ、音響やライトを照らしてくれるヤツは汗をダラダラ流してやっている。

俺は、ステージの上で、そのライトを浴びる。

ふざけた気持ちじゃダメなんだ!やっと、そうわかった。


 文化祭を3日後に控えて、ゆきが演劇部に顔を出した。


「えいちゃん!ごめん!忙しいとこ。

ちょっとだけいい?」

「うん、いいよ」

ゆきの顔見ると気持ちが安らぐな。

「どう?」

「やっとできてきた感じかな。 

あとは、通し稽古を何回かやって本番かな」

「そう!私も前日は、花いけたりするの忙しいと思うから、会える時に会っとこうと思って」

「俺の方こそ、ゆきが花いけてるとこ見に行きたかったのに、行けそうもなくて。ごめん」

「ううん、全然!えいちゃんの演技楽しみにしてるから、当日頑張ってね!」

「サンキュ!」


よっしゃ~!!

ゆきの顔見たら、超元気になったぞ!

ラストスパート頑張るか!!

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