27話 矢沢弘人 ⑦
中2 秋
俺の告白から1週間。
ものすごく長く感じた。
3日間、中野は学校を休んでいた。
もうこのまま、2度と会えないんじゃないか、なんて、そんな風に思えるくらい寂しかった。
朝、廊下で中野が登校してくるのを待っていた。
中野は、俺の顔を見つけて、近よってきてくれた。
「えいちゃん、今日放課後、時間もらえるかな?」
と聞かれた。
俺と付き合うのか、付き合わないのか、今ここでYESかNOかハッキリしてくれ!!
心の中で、そう叫んでいたが
「うん、いいよ」
と答えただけだった。
放課後になり、中野と教室で2人っきりになった。
俺は、ものすごく、ものすごく緊張していた。
中野が話はじめて、はなしている間、ずっと中野を見つめていた。
ずっと、
田坂のことが好きだった。
でも、片思いで告白もできないまま、失恋した。
田坂は、別の人と付き合っているし、今はもう、諦めている。
だけど、心の中に未練はまだあるのかもしれない。
そう言う内容だった。
びっくりした……
中野も朋徳のことを好きだったなんて……
お互いに好きで、両思いだったのに、なんでここまですれ違っちまってるんだ?
どっちかが、ハッキリと好きだって言えば、もう付き合えてたはずじゃねーか!なのに……
なんでだよ……
俺は目を閉じ、うつむき、そして大きく深呼吸した。
(どうするか……)
目をひらき、中野を見た。
(この人を、手に入れたい!!)
「正直だね!いいよ!それでも。
朋徳への未練があっても、僕が忘れさせてあげるよ!
もう1度改めて言わせてくれるかな。
僕と付き合って下さい!」
そう言った。
中野は、顔を真っ赤にして、目を潤ませた。
「はい。よろしくお願いします」
そう言うとしゃがみ込んで、ポロポロと泣いた。
「朋徳も、中野のことを1年の時から好きだった
んだ!
今も、中野への思いを引きずってる!
今、中野が好きだって言えば、朋徳、彼女と別れて中野と付き合うんじゃないか!!」
そう言ってやりたかった。
でも、俺は言わなかった。
中野のこの涙は、朋徳を思う気持ちとの決別の涙なのか……
俺の中の何かが、そんな冷めた目で、中野を見ていた。
その日の夕方、俺は朋徳の家へ行った。
「中野と付き合うことになった!」
俺はいきなりそう言った。
朋徳は、すごく驚いていて、動揺を隠せない感じだった。
俺は、1番大事なことは 言わなかった。
「中野、1年の時からずっと、おまえのこと好きだったって言ってたぞ!」
そう言ってたら、どうなっていたのだろう……
俺は、朋徳の思いも、中野の未練も知りながら、それをそれぞれに伝えることはしなかった。
そんな自分にイラつきながら、朋徳にあたっていた。
「真っ先に、朋徳に伝えたかった。
それが、好きだった女をもらう礼儀だと思ったから」
イヤな言い方だった。
「感じわりーな!!」
と、朋徳も不快な顔をした。
その顔を見て、俺はにっこり笑った。
そうだ!俺は、感じわりーヤツだよ!!
初めてホレた女を絶対に手に入れたかった。
自分の方へ気持ちを向かせたかった。
だから、ラフプレーでも勝てばいい!!
その時の俺は、そう思った。
あれから3年。
ゆきは、朋徳のことを全く口にしなかった。
同じクラスだけど、2人が話しているところを見たこともなかった。
それが、逆に 意識しているようにも思えた。
俺とゆきとの交際は、ケンカをすることもなく順調だった。
俺は、ゆきといると幸せだし、今ゆきもそうだと思っている。
だけど、時々思い出してしまう。
俺のしたことは、フェアじゃなかった。フェアじゃない試合で勝っても嬉しくない。
俺は正々堂々と朋徳と戦ってない。
だから……まだ、試合が終わりになっていないような気がしている。
こんな風に、いつまでも引きずってんなら、正直にゆきに言っちまおうか!?
まっすぐな性格のゆきは、俺のことを嫌いになるかもしれないな……
それが怖くて、本当のことは言えない……
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