26話 矢沢弘人 ⑥

 部活終わりで、ゆきが体育館に来るなんて、本当にめったにない。

朋徳に何か言われて来たんだな。

さてと、言い訳でも聞かせてもらうか。


「えいちゃん、今日 田坂きたでしょ!

ビックリさせようかと思って言わなかったんだ。ごめんね。

何か怒ってるって?私に?」

「あっ?ううん。違うよ。

ゆきのこと怒ってるわけじゃないよ」

「じゃ、田坂が何か、イヤなことした?」

「いや、俺、ちょっと自分で自分がイヤになっただけだよ。 

朋徳にあたっちまったけど」

「何で、えいちゃんが自分のことイヤになるの?」


まっすぐな瞳で見つめられて、俺の薄っぺらな人間性が見透かされるような気がした。


「部活でちょっとな……」

目をそらし、下を向いた。

「そうなんだ。私に話して楽になるなら聞くし、言いたくないなら聞かないけど」

首を傾げながら言った。

「今はやめとくよ」

「そう。じゃ、聞かないね」


ゆきの顔を見たら、イライラしてた自分が急にバカみたいに思えてくるな。

やきもち妬いたり、嫉妬したり、恥ずかしいな俺……


「練習試合は、どうだったの?」

「あっ、うん。私は勝てたんだけどね。チームとしては2対3で、負けたよ」

「そっか」

「やっぱね強いよ!佐古は!部員大勢いるしさ。女子1、2年で23人だって!

うちと大違いだよ!

昨日の、男子も2対2、1引き分けで、まぁ引き分けだったけど、強いなぁって感じたよ。

田坂、佐古の大将で、勝ってたよ」

「そっか、部長やってるって言ってたな。

佐古の中でも強いってことなのか?」

「まっ、そうだね!大将だからね!1番強いのかもね!

うちの村木君だって、相当強いんだよ!

なのに負けたからね、接戦だったけど。

田坂の剣道って、わりとキレイな剣道ってイメージだったんだ。

柔ってゆうのかな。そこに剛も加わったって感じで力強い剣道してたよ!

佐古で鍛えられてるなって思ったよ」

「朋徳と何か話したの?」

「うん、久々に話したよ!卒業以来初めてかな。機嫌悪かったけど、ひろによろしくって言ってたよ!」

「そっか」


ゆきの話を聞いていて、どこにもやましい感じはなかった。

元同級生と久しぶりに会った。

ただそれだけ、という感じだった。

意識して、いつまでも昔のことを引きずっているのは、俺だけなのかもしれない……

何をそんなに引きずっているのか。

自分自身では、よくわかっている。

俺が卑怯な男だからだ……

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