23話 田坂朋徳 ⑤

 ひろのやつ、訳わかんね〜こと叫んでたな!!機嫌わりーし。

それにしても、滝沢に忠告されてなかったら、

あのボールまともにくらってたな……

何だよ!あれ!

手、ジンジンきたわ!

中野とうまくいってね〜のかな?

んなことねーなー!

中野はニコニコしてたしなぁ。

わかんねーやつ……


ちょっと、遅くなっちまったな。

ヤベー、試合始まっちゃってるわ。

「失礼します」

一礼して道場に入り、正座した。


「面あり!勝負あり!」

ちょうど次鋒戦が終わったところだった。

1対1か。

いい勝負だな。

おっ、中野、中堅か。


「はじめ!」


ふ〜ん。いい動きしてんな!

えっ!

そこで胴!?マジか!

「胴あり!2本目!」


迷いのない、いい動きだな。

おっ!決まったな!

「面あり!勝負あり!」


あっさり勝ったな。

うちの山峰を瞬殺かよ!

強くなった!

かけもちで、ストレス解消なんて言ってたけど、真剣にやってんだな中野。


昔よりも、キレイになったな。

髪型が違うからかな?

中学の時はショートか、ボブくらいだったけど、ロング似合うんだな。

「中野のこと、今でも好きなのか?」

って、そんなこと100%ね〜けどさ〜。

改めて、惚れ直すってことはあるかもな……

ははは、ひろの女に手〜だして、どうすんだ!

勝ち目ないだろ!

何考えてんだか、俺。

練習試合中に、不謹慎だな。


試合結果は、3対2でうちの勝ちだった。

中野が俺のところへ来て、正座し、深々と頭を下げた。

「昨日、今日と遠いところ ご足労いただきまして、ありがとうございました。

いい試合をさせてもらいました」

と言った。

これは、まぁ相手校の部長に対しての、型通りのお礼の挨拶。

「こちらこそ、ありがとうございました」

俺も深々と礼をした。


「中野、すっげー上達したな!

あのタイミングの飛び込み胴は、普通怖くて出来ね〜よ!

あれで、ブラフはったから、2本目の面なんて簡単にとったじゃん!」

「あはは。今日は、調子が良かっただけかも!」にこっと笑った。


「さっき、ひろに会ってきたよ」

「そう!えいちゃん、ビックリしてた?」

「それがさ、超 機嫌悪くてよ!何しに来たんだよ!って言われちまったよ」

あははと笑って言った。

「えっ??ほんとに?えいちゃんが田坂に、そんな風に言うなんて信じられない!

部活でなんかイラつくことでもあったのかな〜。に、しても、ごめんね!

田坂にあたることないのにね!

久々に会って、その言い方はないよね!!

私、よく言っとくよ!」

「あっ!!いや、言わねー方がいいな!たぶん」

「どうして?」

俺が、中野にチクったって、余計こじれそうだしな。

「まっ、よろしく言ってたって、そのくらいにしといてくれよ」

「うん、わかった」

納得いかない顔してるけどな。


「じゃ、また大会でな」

「うん、お互いに頑張ろうね」


あの感じを見ると、やっぱ中野となんかあった訳じゃなくて、俺がここへ来たことが原因だな。

あいつ、何を誤解してるんだー?


確かに、俺は中野のことが好きだった。

って、中1の半年間くらいの間だろ。

無視されたり、相手にされなくて、あっけなく失恋して諦めたんじゃん。

で、新しい恋をどんどんしてさ。

中2の秋から、ひろと中野が付き合うことになったけど、俺はもう別に関係ない話だろが。


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