22話 矢沢弘人 ⑤

 田坂!!!!


朋徳 今日も来てんのかよ!!

ふざけんなよ!!

俺は、かなりムッとしていた。

入り口に朋徳の姿を確認した。


ボールをドリブルしながら、ゆっくり体育館の出入り口の方へ歩いた。

5メートル手前くらいで立ち止まった。


「お!ひろ、久しぶり!」

って、朋徳が手を挙げた。

「で、なに?」  

そう言って、ボールをいきなりパスした。  

ってより、ドッヂボール並みに投げつけたに近かった。

「おっ!!」

それを、朋徳はサラッとキャッチした。

は?あれ、とれるのかよ?


「なにって、ひで〜な〜!

おまえ、冷てーじゃん!!」

「俺は今、マジですげー機嫌わりーんだ!!」

「なんで?」


おまえがいるからだよ!!俺の女に手〜だしてんじゃね〜よ!!って、言いそうになった。


「まぁ、いろいろとな」

落ち着け、俺!

「実は昨日も来てたんだけどさ、昨日は忙しくてな。

今日は、女子の練習試合だからさ、俺は付いてきただけなんだ。

一応、部長やってるからさ」

「そっか」

少しは、落ちついてきた。

「昨日、中野に会ったぜ。

元気だな。

おまえら、うまくいってんだなぁ。

中野幸せいっぱいみたいな顔してたぜ!」

「そっか」


で?

手〜だしてんじゃね〜よ!!

 

「突然行って、ひろのことビックリさせてやれって言ってたけど、なんかタイミングわりー時に来ちまったみたいだな。

おまえが、機嫌わりーなんて、あんまね〜のにな!まっ、ちょっと顔見たかっただけだからさ!じゃ、行くわ!!」

そう言うと、フワっとボールを俺に返した。

朋徳が歩いて行く後ろ姿を見ていた。


慌てて体育館を飛び出して、

「朋徳!!」

と、俺は、叫んだ。

「今でも、ゆきのこと忘れてねーのかよ!!」

朋徳は、振り返ると

「えっ?なに?」

と聞き返した。


「中野のこと!!今でも好きなのか!!」


朋徳は、目を丸くして

「あはははは!何、言ってんだー?

もう、ずーーっと前からおまえの女だろ!!

おまえの彼女に手出したりしね〜よ!!

バーーカ!!」

そう言うと、手を振りながら歩いて行った。


「おい、おい!なんだよ!今の!普通に聞こえちまったから聞くけど、おまえら三角関係か?」

滝沢がうしろから声を掛けた。


「みたいなもんだな」

「マジかよ〜!深夜ドラマみたいだな!

田坂とゆきちゃんを取り合ったんか?

ゆきちゃんの初恋の相手が田坂だって言ってたな。

あれっ、でも、田坂って、なんかしょっちゅう女変えてなかったっけ?

うちのクラスの横田とも付き合ってたよな?

どこにおまえとゆきちゃんがかかわってくるんだ?」

「一言じゃ言えねーよ!俺たちの関係は複雑で……

親友であり、ライバルだ。

俺はまだ、朋徳に勝ててないような気がしてる……」

これは、本心だ。


「よくわかんねーけどよー!!

勝ち負けなんて、試合じゃねーし、決められね〜じゃん!!

おまえとゆきちゃんが今、2人幸せなら、それでいいんじゃねーの?

いつも、クールなおまえがそんな風に熱くなってんの初めてでビックリだわー!!  

そんだけ、田坂はおまえにとってデカい存在ってことか!」

そう言って、俺の肩を叩き、コートへ走って行った。


“デカい存在”

か…………

だな。

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