20話 矢沢弘人 ④

 高2 秋


 4日間のテストもとりあえず終わり、また今日から部活が始まる。


放課後になり、ふと窓の外に目をやると、グランド横の駐車場にマイクロバスが2台入ってくるところだった。


「あれ、どこの学校だろ?」

独り言のように言ったけど、

「あぁ、佐古高だよ!

やっぱ私立の金ある学校は違うよなぁ。

どっかの部と練習試合じゃねーか?」

と、滝沢が答えてくれた。

「へぇ〜、佐古ね〜」


気にとめることでもなかったのに、なんとなく気になってそのまま見ていた。

バスから続々と男子部員たちが降りて、竹刀と防具を降ろし始めた。

剣道部じゃん!!

佐古高の!!

じゃ、朋徳が来たってことか!!

俺の心は、激しく乱れていた。


部活が始まっても、俺はプレーに集中できず、先生に外で走ってこい!!と怒鳴られた。


俺は、剣道部の道場へ向かった。

まだ、練習試合は始まっていないようで、道場に出たり入ったり、部員たちが忙しそうにしていた。

中を覗いて見ると、 いた!!


ゆきと朋徳が2人で話をしているのが見えた。

楽しそうに笑っている。


俺は、たまらなくなって背を向けた。

グラウンドへ行って、走った。


走って、走って、走って、転んだ。

痛て〜!クソッ!!


「矢沢せんぱ〜〜い!!

先生が戻ってこいって言ってま〜〜す!!」

後輩が呼びにきた。


体育館に戻ると、先生に

「なんだ?おまえ!泥だらけじゃないか!

顔にまで土ついてんぞ!

マネージャー、タオル!

拭いたら、中入れ!すぐ入れるか?」

「はい!!」

「よし!坂本と矢沢チェンジ!!」


集中した。


今だけでも、忘れたかった。

「矢沢いいぞ!今の調子でやれ!」

「はい!ありがとうございました!」


「矢沢先輩、お疲れ様です。

顔、擦りむいてますよ。消毒しましょうか?」

1年のマネージャーが声をかけてきた。

「いいよ」

「でも……」

「いいって!!」

思わず怒鳴ってしまった。

「あっ、はい!すみません!」

と、半ベソで走って行った。


「おいおい、どうした〜?

荒れてんじゃん! らしくね〜なぁ」

滝沢が笑いながら言った。

「何でもねぇよ!」

「そっかぁ?彼女とケンカでもしたかな〜?」

「んなもん するかよ!」

「まな!おまえらのラブラブぶりは、中学ん時から見てるからさ、ケンカなんかしね〜ってのも わかってるけどさ」

そう言って横に座った。

「で?どうした?」


「……さっきさ、佐古高来てたじゃん!

佐古の剣道部。

田坂って覚えてるか?」

「あぁ、4組だった田坂!剣道部のな!

矢沢、仲良かったヤツだろ?

田坂、佐古に行ったんだ?」

「あぁ。で、今 来ててさ、さっき道場へ見に行ったら、ゆきと話しててさ……」

「そりゃー話すだろ!

元同級生と久しぶりに会やー!

ムシする方がおかしいべ!!

は?えっ?なに?

おまえ、それでヤキモチ妬いてんの?」

「やきもち?」

「かわいい奴だなぁ!おまえって!」

「からかうなよ!俺は機嫌わりーんだ!一発くらい殴るかもしんねーぞ!」

「おー怖いねー!」


「田坂は……ゆきの初恋の相手だ」

「ふーん、なるほどね〜!

だけどよ〜!おまえら付き合って、もう3年だろ!?

その間、ケンカもしねーで、お互い浮気もしね〜でいるわけじゃん!

初恋の相手と久しぶりに会ったからって、彼女の気持ちがグラつくとも思えねーけどな! 

ゆきちゃん かてーしよ!!」

「……だな……滝沢、サンキュ!

今の話、ここだけの話な!」

「おぉ!俺もこう見えて意外とかてー男だ!!

でも、意外だな。おまえが嫉妬するなんてな」


しっと……

嫉妬なのか?この気持ちは……

朋徳に?ゆきに?


 家に帰り、ゆきから電話がくるかと思って待っていたが、結局掛かってこなかった。

朋徳と会ったこと、俺に秘密にしとくつもりなのか……

やましい気持ちがあるからなんじゃないのか?

イラつきながら、眠りに落ちた。


 

 次の日

 朝起きても、イライラは消えてなかった。

何か すげームカつくな!!

ゆきの教室へ行って、隠しててもムダだから!

知ってんだけど!って言いに行こうか。

イヤ、なんか、それって、感じ悪いよな……

逆に、なんか、嫌われに行くみたいになるじゃん!

知らない振りしてた方が平和だろ。

クソ!!マジで!!イライラする!!


1日がとても長く感じられた。

放課後になった。


早く、部活行って、発散しよ!!

こうゆう時は、思いっきり走ってバスケやるのが1番だな!!

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