19話 田坂朋徳 ③

 中野の好きな人を聞いても、俺は諦められなかった。


夏休みが明けて、朝練のマラソンの時、登校してくる多尾先輩といつもすれ違う。

2年の女子の先輩たちに冷やかされて、真っ赤な顔をして下を向いている中野をいつも見ていた。

辛かった。


そんな日が何日続いたのか、ある日中野が泣いていた。

マラソンの途中でいきなり泣き出した。

あとで噂で聞いた話だと、多尾先輩にフラレたらしかった。

傷ついてんだな 中野……

俺にしてみれば、チャンス到来だったが、中野に声をかけることはできなかった。



 中1 秋

 剣道の大会や、文化祭があって、中野と少し話ができるようになった。

席替えをしたら、席が隣りになった。


中野のどこが好きなのかって考えたけど、よくわからない。

中野は、なんてゆうか、近寄りがたい雰囲気があった。

自分から、男子に軽く声をかけるタイプじゃなかった。

女子の友だちの中では、陽気に話をしているけど、男子にはちょっと身構えているような感じだった。

男嫌いなんだと言われていた。

でも、少しずつ話せるようになって、気が合うなぁと感じた。

ものの考え方が結構俺と似ているなって思うことも多かった。

よくわからないけど、懐かしい感じ。

ずっと昔から知ってる人のような……そんな感覚。


一見、大人しくて、もの静か。

真面目だし、頑張り屋だし、根性がある。

でも、意外におもしろいことも言う。

時代劇とか、ヒーローが好きだって。

刀で戦うのがカッコよくて、だから、剣道部に入ったとか言って笑う。 

この笑顔は、他の男子には見せない顔だなと思うと、余計に嬉しかった。

中野と喋ってると、すごく楽しい。 

たぶん、中野とこんなに話ができる男子は他にいないよな。


もしかしたら、中野も、俺のこと、少しは気があるのかな、なんて思って、1人でニヤけていた。



 中1 冬休み


 毎日、部活があった。

中野と会えることが楽しみだった。


それにしても、1年女子 仲良いな!!

中学生にもなって、雪合戦かよ!

部活であんなにしごかれた後なのに、みんな元気だな!

こういう時の中野は、すげー笑ってて楽しそうだな!!

 

「コラーー!!おまえら!サッサと帰れ!!」

「はい!すみません!さようなら!」✕11

「バイバーイ!」✕11


よくもまぁ、毎日同じこと繰り返してるよな〜!大崎に怒られんの、わかんじゃん!

少しは学習しろよ!


この冬休み中に、俺は中野に告白しようと思っていた。

だけど、全然チャンスがなかった。

なかなか1人になることがないし、たまに2人で喋っていると、必ず伊藤がすぐに話に入ってきた。

“おまえ、ちょっと邪魔だよ!”って、何度言いかけたか……


あんなことになるなら……

あんなことになるなら、言っちまえばよかった……



 中野柚希……かぁ……

 ひろの彼女


明日は、体育館へひろに会いに行ってみっか。

ひろ、変わってねーかな。

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