17話 田坂朋徳 ①

 高2 秋


 いろんなところと練習試合したり、合同稽古したりしてるけど、梅原へ行くのは初めてだな。

毎年上位に食い込む強豪校だからな。

楽しみだな。


「田坂!」

後ろから声をかけられた。

明るい声。

振り返ってみた。

中野?


「おっ!これは、これは、矢沢夫人!」

「なにそれ?おばさんみたいじゃない!

中野です!」

「わかってるよ!久しぶり!元気そうだな。

ひろ とは続いてるんだろ?」

「うん!お陰様で」


中野とひろ、うまくいってんだな。

すげー、にこにこしてんだけど!

幸せそうだな。


「田坂は?」

「あっ俺?この間、彼女と別れたばっか」

「相変わらずだね〜!あはは」

「相変わらずって、なんだよ!

俺が続かね〜男みたいな言い方すんなよー!」

「だって、事実じゃん!あはは!」

ポニーテールを揺らして笑ってる。

「まぁ、そうだな。実際、続かね〜な」

「1番長かったのって、依子ちゃん?」

「あぁ、そうだな。

高校別々になってすぐに別れちまったけどな」

「そうなんだ。ラブラブだったのにね」

「そうだったかな。忘れちまったな。

それより、中野が梅原で剣道やってるなんて知らなかったな!」

「そうなの?意外かな?」

「うーん、意外ってこともねーけどさ、梅原で剣道って、だいぶガチ勢じゃん!

ひろの近くにいる為にバスケ部のマネージャーとかやりゃ〜いいのに」

「そうだねー!部活やってると確かにすれ違いでさ、なかなか時間合わないんだよね〜。

マネージャーか〜、いいね!」

「気づくの遅せ〜よ!あはは!ひろもマネージャーやってって言わなかったのか?」

「うん、全然言わない。たぶん、部活は集中してやりたいんじゃない」

「そっか」

「私ね、華道部とかけもちしてんだよ」

「はぁ?かけもちってありかよ?」

剣道と?

「最初ね、おしとやかな路線に変えようかと思って、花好きだから華道部に入ったの。

だけどね、活動が週1回だって!それが、何か物足りなくて、やっぱ部活って毎日やりたいし、大声出したくなっちゃって。

剣道部の先生に相談したら、かけもちOKって言ってくれたから、1年の6月から入ったんだ。

ストレス解消で楽しいよ!」

「そっか、楽しそうだな」

まじで。

「あっ、私、1人で喋りすぎだね!

えいちゃんに会ってかない?

朋徳どうしてるかなって、ついこの間も言ってたよ」

「会いたいと思ってたんだけどな。

今日は、忙しいな。

明日、女子の練習試合だけど、俺もついてくるからさ。

明日会いに行くって、ひろに伝えといて!」

「うーん、どうしようかな。

突然行った方が、ビックリしていいんじゃない?サプライズで!

私、内緒にしとくよ!」

にこっと笑った。

「そっか、まぁいいや」

「田坂部長!そろそろお願いします!」

後輩に声をかけられた。

「おっ!了解!」

「じゃ、練習試合、よろしくお願いします。

応援はしないけど。

うちの学校、意外に強いよ」

小さな声で、ヒソヒソ話しみたいに言った。

「知ってるよ!本気でやらせてもらうよ!」

「じゃね!」

中野は、にこっと笑うと、ポニーテールを翻して歩いて行った。

髪、なが!!

中野がこんなに喋るなんて。

こんな風に会話するのは、いつぶりなんだろう。

何か、懐かしいな。

すごく、懐かしい……

中1の秋は、こんな風だったような。

それ以降は、ムッとした顔しか見たことなかったし……

あんなに、ニコニコ笑ってて、幸せなんだな。

ひろの愛の力か。

やっぱ、すげーな!ひろ。

ひろには、やっぱり かなわないな……

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