15話 中野柚希 ⑫

 中2  夏休み 


 夏休みの部活最終日。


打ち上げで、恒例の好きな人発表。

今年は聞く方の立場になった。


もうこんなことは止めようかと私達は思ったけど、3年生の先輩たちの手前、やめられず今年の1年生に聞くことになった。

1年生は、5人だけと少ない。

あっという間に発表も終わった。

その中の1人、丸川さんがえいちゃんのことを好きだと言った。

そして、私が同じクラスだということで、協力してあげなよ!なんて先輩たちに言われ、私が丸川さんのラブレターをえいちゃんに渡すことになった。

その時の私は、すごく軽い気持ちで引き受けた。

えいちゃんは、超モテるし、丸川さんじゃ撃沈だろうなぁなんて思いながら。


 9月7日、私は丸川さんの手紙を渡す為に、えいちゃんに声をかけた。

そもそも、私は人見知りだし、男子はニガテだし、えいちゃんとは話したことなかった。

それが、自分のことじゃなかったからか、不思議なくらい簡単に声をかけられた。


「えいちゃん!話しがあって、今日の放課後、教室に残ってて欲しいんだけど、いい?」

「えっ?あっ、うん。わかった」


そして、放課後。

教室で2人きりだった。

手紙を渡し、それを読み終わったえいちゃんは


「中野のこと 好きなんだ。 僕と付き合ってくれないか」

真剣な顔でそう言った。



 運命かぁ……

今 考えるとあの頃の私、なんか投げやりで、どうでもいいって思ってた。

田坂と付き合えないなら、ふざけて楽しく過ごそうって、そう思ってた。

丸川さんの手紙、すごい軽い気持ちで引き受けて、本当に悪いことしたな……

でも、それがキッカケで、えいちゃんに告白されたんだもんね。

ほんっと、ビックリしたよ!

だけど、その後 悩んだな……

告白されてからの一週間、いろいろ あったな。

丸川さんに、えいちゃんからの返事の手紙を渡し、説明し、泣かれ、謝り。

丸川さんの友だち数人に怒られ、イヤミを言われ、謝り。

ボーッとしてて、美術の授業中に彫刻刀でグサッと指を切り、ビックリするくらい血が出た。

血をダラダラ流して保健室に運ばれ、休み時間に心配して来てくれたえいちゃんの前で子供みたいに大泣きし、熱を出して、学校を3日間休んだ。

今 思い出すと超はずかしいな。

血をダラダラ流して泣いている女を見て、引いただろうね……

聞かない方がいいな……


 学校を休んだ3日間、私はベッドでえいちゃんへの返事を考えていた。


まず、1番先に思ったのは、えいちゃんと付き合うことができるなら、すごく嬉しい!付き合いたい!そう思った。

でも、次に思ったのは、私に、えいちゃんと付き合う資格があるのか?ということ。

丸川さんの友だちにも、まさか、横取りして付き合うんじゃないですよね!?って、言われたけど、ほんとに横取りなんて酷いよね。

それと、私がずっと好きだったのは、えいちゃんの親友の田坂で、それを隠して付き合うことはできないと思った。

えいちゃんに失礼だと。

……正直に言おう……


1年の時から、田坂のことが好きだった。

告白することも出来なくて、片思いだったけど、田坂が依子ちゃんと付き合うことになって決定的に失恋していた。

もしかしたら、まだ未練があって諦めきれていないのかもしれない……

だけど、えいちゃんに告白されて、正直本当に嬉しかった。

1年の時から、田坂を見ていて、親友のえいちゃんのこともずっと見てきた。

えいちゃんが優しくて、スポーツもできて、どんなにモテるかも、よく知っている。

えいちゃんが私のことを好きだなんて、未だに信じられない。

でも、冗談でからかうようなことをしないって わかってる。

えいちゃんに告白されて、嬉しくて舞い上がっちゃって、一気に恋におちたと思う。

でも、よく考えてみて。

親友の田坂のことを好きだった女なんて、やっぱり嫌だと思ったら、この前の告白はなかったことにして下さい。

付き合えるかどうかは、私が決めることじゃない。

えいちゃんに決めてもらおう。

これが、私が出した結論だった。

それで、いい。

こんな私みたいな、可愛くもない目立たない女が、恋愛学園ドラマみたいな、心に残る告白をしてもらっただけでも、幸せな気持ちになれたから。

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