12話 矢沢弘人 ③
中1 バレンタインデー
「こんばんは!」
「あぁ、朋徳君、いらっしゃい!弘人!朋徳君が来たわよー!」
と、母が玄関から大きな声で言った。
「2階あがってきて!!」
俺もデカイ声で返した。
「お邪魔します」
階段を勢いよく昇ってくる足音が聞こえた。
部屋のドアを開けるなり、
「よっ!イケメン!今年は何個だよ!?」
と、朋徳が聞いた。
「おっ!来てくれてサンキュ!マジで困ってた。11個。
うちの家族、俺以外チョコ食えないからさ〜」
「毎年、俺チョコ食いに来てるけどよー!
ちょっと、惨めになってきたわ!
今から言っとくけど、来年は こねーからな!」
「了解!じゃ、来年は断って、最初からもらわないようにするわ!
まっ、来年のことはいいとして、食べようぜ!」
毎年恒例で、バレンタインデーの夜は、朋徳と一緒にチョコを食べてる。
それにしても、こうゆう可愛いラッピング、正直言って、ただゴミになるだけなんだよな〜。
ゴミ箱 一気にいっぱいになっちまう。
ハートのチョコをバキッと割って、2人で食べた。
「で、青年!今日はどうだったのかね?」
と、俺が聞くと、
「あぁ、最悪だったよ!マジで今日、告白するつもりでいたんだ!バレンタインだけどよ〜、逆告白って。
だけど、邪魔が入って、結局できなかった……」
「告白って、誰に?」
「誰って、決まってんだろ!」
「中野……だよな?」
「あぁ」
「じゃさ、何でおまえが伊藤のこと好きだって、噂になっちまってんだ?
あれじゃ、中野だって誤解してんじゃね〜の?」
「はぁ……」
朋徳は、食べる手を止めて、ため息をついた。
「誤解させちまった。で、一気に嫌われた」
そう言うと、冬休みの部活でのことを僕に話した。
「で?中野が走って行っちゃって、何で追っかけなかったんだよ?」
「なぁ!」
「なぁじゃねぇよ!」
「追っかけね〜で、伊藤と話しこんじまった」
「で、冬休み明けから、あの態度って訳だ!
俺でもわかったぜ!こりゃ何かあったなーって!あからさまに、無視してたじゃん!!」
「あーー!そう!完全無視!!
伊藤に聞いたら、怒ってるよ〜!ふざけて2人のどっちかなんて適当なこと言う奴ムカつくって!ってさ」
「それで?謝りゃいいじゃん!」
「何回も謝ろうとしたさ!それから、本当の気持ち伝えようとした!
だけど、全く聞く耳持ってね〜んだ!」
ふ〜〜っと大きく息を吐いた。
「で、今日に至る。今日も結局、告白はできず……
俺、もう中野のこと やめようと思ってんだ」
「は?やめるって、諦めるってことか?」
「ああ、もう諦めて違う相手探すことにするわ」
「それ、マジで言ってんかよ!!」
「だってよー!脈なしだしよー!なんか、辛れーし、疲れちまったよ」
「でもさー、」
言いかけた俺の言葉をさえぎるように、
「ひろには わかんねーよ!こんなにもチョコもらって、告白されて、全部即断って!相手の気持ちなんか全く考えてねーじゃん!!
モテるからって、いい気になってんなよ!!」
「は?なんだー!?」
「1度でも、マジで惚れたことあんのかよ!
わかんねーくせに、口出しすんなよ!!」
そう怒鳴って、朋徳は飛び出して行った。
朋徳が出て行ったあと、1人部屋に残されて俺はボーッとしていた。
朋徳があんな風に怒鳴るのは、初めてだった。
『1度でも、マジで惚れたことあんのかよ!』か……
ないな……
いつか、運命の人ってのに、会えるんじゃないかと思っていた。
運命の人に会えるのを、待っていればいいんだと……
でも、運命の人ってのは、自分から探さないと見つからないのかもしれないな……
本気で、人を好きになるなんて、僕にできるのだろうか……
♪〜〜〜〜
星に願いを
ゆきからの電話だ。
時計を見る。
1時ぴったり。
正確だな。
「えいちゃん、どう?勉強はかどってる?」
いつも通りの優しい声だ。
「ううん、ダメ。
気が散って集中できなくて、もう諦めてゆきの電話がきたら、寝ようかと思ってたよ」
「そうなんだ!じゃ、寝て!もう切るから」
「あっ!待って!ゆき!まだ話したい!声が聞きたかった!」
「あらら〜珍しい!えいちゃんが甘えたこと言ってるー!ふふふ」
「からかうなよ」
「ごめん。ごめん。じゃ、何の話する?
私、今日学校から帰ってきて2時間爆睡しちゃったから、まだ、眠くないし」
俺たちは、たわいもない話を30分くらいした。
そして、
「ゆき、運命って信じる?」
聞きたかったことだ。
「ん??運命?そうだな〜。運命ってのがあって、えいちゃんが私の運命の人だったらいいなって、そう思うよ」
「そっか」
俺は、運命を信じている。
俺とゆきが付き合うことになったのは、運命だ!!
朋徳を好きだった ゆき。
ゆきのことを好きだった 朋徳。
俺は、朋徳と一緒にずっとゆきのことを見ていた。
その時は、恋心もなく、ただ見ていただけだったけど、いつの間にかすごく気になる存在になっていて、目で追っていた。
これが、恋なのかと初めて気づかされた。
ゆきも、朋徳のことをずっと見ながら、隣りの俺のことも見ていてくれた。
たぶん、直接俺たちが結びつくことは、まずなかっただろう。
朋徳がいて、俺、そしてゆきがいた。
この出会いは運命だった!!
付き合えば、付き合うほど、それを強く感じる。ゆきのことが大好きだ。
「えいちゃん?もしかして、眠くなった?」
「あ、そんなことないよ」
「運命の話はまたにして、今日はもう寝よ!」
「うん、そうする」
「じゃ、明日のテストがんばろうね!帰り一緒に帰ろ!」
「あぁ」
「じゃ、おやすみ、えいちゃん」
「あっ!待って!ゆき!愛してる!!」
思わず叫んだ。
「えっ!あはは。えいちゃん、今日は何かおかしいね。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
電話を切ってすぐに、ゆきからメールがきた。
ハートマークでぎっしり埋め尽くされた画面に、
大大だいすき!と書かれていた。
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