11話 矢沢弘人 ②
中1 夏休み
朋徳から、中野の話を聞いたのは、夏休み中だった。
「あちーなー!この家!それに、狭め〜し!!」
「おっ!矢沢家批判かよ!母ちゃんに言いつけるぞ!」
「あはははは!冗談だよ」
「朋徳んちに比べたら、どこん家だって、狭めーよ!」
「まぁ、そうだろうな。それが、普通ってもんだ。あははっ」
朋徳の家は、古くから代々続く大きな寺だ。
寺の長男。
いろいろと大変だという話は、よく聞かされていた。
普通がいいよ。普通が。とよく言っていた。
「なぁ、ひろ……好きな子できたか?」
窓の外を見ながら、朋徳がボソッと言った。
「好きな子?何だよ突然。
あっ!朋徳!誰かにホレたな!!誰だよ!!」
「たぶん、ホレたんだろうな……見てて、ドキドキするんだよ」
「だから、誰だよ!俺、知ってる子か?
あっ!部活!剣道部だろ!!」
うん、と頷いた。
「剣道部の1年女子10人くらいいたよな?
何組?」
「4組」
「は?うちのクラス!?」
俺は身を乗り出した。
「伊藤か?」
「違う」
「じゃ、棚部?小沢?」
朋徳は、横に首を振った。
「……中野?」
相変わらず窓の外を見ながら頷いた。
意外だった。
「中野柚希。意外だな」
「そうか?」
「だって、あんまり目立たないじゃん。
おとなしいってゆうのかな。
ちょっと、近寄り難い感じがするけどな。
どこがいいんだ?」
「わかんねぇんだ、俺にも……何がいいんだろうな……」
「なんだよ、それ!ぱっと見、伊藤の方が可愛いじゃん!」
「かもな。でも、ホレるってのは、顔だけじゃないだろ」
「そっか!まぁいいわ!ガンバレよ!部活一緒で、クラスも一緒で超いいじゃん!付き合えるといいな!」
「サンキュ!ひろ」
好きな子ができるなんて、正直羨ましかった。
僕は、まだ、そんな風に人を好きになったことが1度もない。
もしかしたら、人を好きになれないんじゃないかって思うことすらある。
自分で言うのもなんだけど、僕はモテる。
カッコイイってよく言われる。
ラブレターも何通ももらってる。
でも、その相手を好きになることは1度もなかった。
カッコイイって何が?ただ見た目のことを言ってるだけで、僕の内面は何も知らないくせに!
あっ!
“ぱっと見、伊藤の方が可愛いじゃん!”
“かもな。でも、ホレるってのは、顔だけじゃないだろ。”
さっきの朋徳の言葉が頭に浮かんだ。
外見じゃなくて、内面を見てるんだな、朋徳は。
「朋徳!恋におちたな!」
「何だよ!いつの時代だよ、それ!
あはははは!」
俺たちは、ジュース片手に、何回も乾杯をし、笑った。
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中1 秋
マラソン大会
男子 5キロ、女子 3キロ
1年から3年まで全校のマラソン大会だ。
男子は先に終わり、僕たちは芝生に寝転がっていた。
「疲れたなぁ〜!」
「マジ、ヤバかったよ俺」
「朋徳は、最初とばしすぎじゃね!あれじゃムリだろ」
「あ〜〜、とばしすぎた……
スタートの時さ、女子が見てたじゃん!どこにいたかわからなかったけど、中野がどっかで見てるかなーと思ったら、ブーーン!!って全力疾走しちまったよ」
「バカだな」
「あぁ」
「でも、見てたぜ!中野。
伊藤と棚部と橋のところにいたよ。
えいちゃんガンバレ〜!って、3人で手を振ってくれたし」
「はっ?俺にはなかったぞ!」
「そりゃーおまえのあの走りじゃ、何も見えないし、聞こえないだろ!
たぶん、3人で笑ってたんじゃねぇの?」
「かもな……かっこわりーな」
「だな!あはははは!」
男子約300人中、朋徳は225位、俺は97位だった。
「あれっ!早いな!もう女子の1位が帰ってきたよ!」
「ゴール近くへ行ってみようぜ!」
驚きの結果だった。
10位内に、剣道部の1年女子が3人も入っていて、4位が中野だった。
「中野って、あんなに足はえ〜んだ!?
びっくりだな!」
そう言って朋徳を見ると、嬉しそうな顔をして、
「はえ〜よ、あいつ!部活で鍛えられてるからな!」
と、誇らしげに笑ってた。
その頃の朋徳と中野は、席も隣り同士で、なんだかすごく楽しげだった。
休み時間になっても、席に座ったまま2人でずっと話をしてる。
僕は、邪魔をしないように、朋徳が中野といる時は離れていた。
2人とも笑ってて、本当に仲良さそうだった。
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