10話 矢沢弘人 ①

 高2 9月


 もう少しで、3年なのかぁ。


中学の時は、付き合ってるって言っても、何だか不安だったな……

俺の告白で、付き合うことになったけど、ゆきの気持ちが変わってしまわないだろうかって不安だった。

1番身近にいる親友が、恋敵になるかもしれないって不安だった。


恋人同士には、それぞれ暗黙の主導権みたいなものがあると思う。

惚れた弱みとでも言うのか、相手に対しての想いが強い方が、相手に合わせて少し我慢することが多いのではないだろうか。

最初に惚れたのは、俺の方。

想いが強いのも、俺の方だと思っている。

だけど、ゆきは、控え目で一歩下がって俺を立ててくれるような女の子だった。


中3の冬に、

「私、梅原にしたから」

って、俺の志望校と同じ高校を受験してくれたのも、ゆきの方からだった。

ゆきは、ずっと商業科の高校に行きたいと言っていて、ちょっと偏差値の高い高校を志望校にしていた。

俺は、普通科の高校に行こうと思っていたし、何よりそんな偏差値の高校は俺には無理だったから、高校は別々になると諦めていた。

そんなゆきが、受験したのは俺と一緒の高校。

普通科と商業科がある高校だ。

ゆきの学力からすると、だいぶレベルを下げたことになる。

「えいちゃんと同じ高校に行きたいから」

って、ゆきの言葉に、俺は素直にただ喜んだ。

ゆきと、高校でも交際を続けられるんだ!って、嬉しかった。

俺の想いの大きさに、ゆきの想いの大きさも追いついてくれたような気がした。


だけど、高校に入って、剣道部に入ると言われてびっくりした。

まさか、高校でも続けるとは思わなかった。

剣道は、朋徳との繋がりを感じてしまう。

たったそれだけだけど、その繋がりが、なんだか気に入らなかった。

ゆきが、剣道を頑張っていることを、俺は心の中であまりよく思っていない。

口ではガンバレよ!なんて、応援しているようなことを言いながら、本心では、剣道なんてやめて、バスケ部のマネージャーになってくれればいいのに……と思っている。

でも、それは、俺のわがままだということも、束縛したいと思ってるだけだということも、自分でよくわかってる。

だから、ゆきには、そんなこと言えない。

俺は、みんなが思っているほど、いい人じゃないし、優しい男でもない。

彼女が本当の俺を知ったら、俺のことを嫌いになるに違いない。

だから、俺は 少し偽りの自分を演じている。

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