8話 中野柚希 ⑧

 冬休み最後の土日を、私は殆どの時間ベッドで過ごした。

母が心配して何度も声をかけてくれた。

食欲ない、ダルい、筋肉痛で動けない。

そんなことを言って、ベッドに横になっていた。


“”終わった“”


そう思った。


田坂とさとみ、お似合いだ。

なんで、今まで気がつかなかったんだろう。

さとみと一緒にいて、私はいつも引き立て役みたいなもんだった。

男子10人に、私とさとみ、どっちが可愛いですか?って聞いたら、間違いなく確実に10人全員さとみを選ぶだろう。

可愛いし、明るいし、人気あるもんな。

なのに、なんで私、田坂が私のことを好きなんじゃないか、なんて思い込んでいたんだろ……

バカだ私……

よく目が合ったりするのは、田坂がさとみを気にしてて、たまたま隣りにいる私をチラッと見たりして目が合っただけだったのかな……

学校、行きたくないな……

明日から、もう田坂とは話せない……



 中1 冬休み明け


私は、足取りも重く、学校へ行った。


「よっ!中野!おはよー!」

ドキッ!

田坂の声だった。

フン!

無視した。

「あっ?おい!おーい!!」


席替えをした。

教室の端と端くらいに、離れ離れになった。

1日がすごく、長く感じられた。

部活も長かった。

すごく、つまらなかった。

 

田坂と話が出来ないだけで、こんなにも苦しいのか……

つらいな……


次の日も  次の日も。

1週間が過ぎた。


朝、マラソンをしていると男子がニヤニヤしてすれ違って行く。

なんだ??と思っていると、前から走ってきた陽介が、


「伊藤!田坂がチョコ欲しいってさ!」

と笑って言った。

次に走ってきた土田も、

「伊藤!バレンタイン、田坂 誕生日だから、

よろしく頼むわ〜!」

と言った。


「なにそれ?何で私が、田坂にチョコあげなきゃなんないの?ねぇ?」

と、さとみは笑って言った。


私は走りながら、奥歯をかみしめ、こぶしをギュッと握り、ただ涙があふれないように、それだけを考えて走った。


朝部活が終わり、教室に行くと、私は倒れ込むように自分の席に座った。


「おはよ!中野、大丈夫?すっごい顔色悪いよ!!」

立花が心配して声をかけてくれた。

「うーん、大丈夫じゃないかも……具合い悪い……」

 

ちょうどそこへ先生が教室に入ってきた。


「先生!中野さんが具合い悪いみたいなので、一緒に保健室に行ってきてもいいですか?」

「あら!ほんと!中野さん、顔色悪いわね!立花さん、じゃ、お願いね!」

「はい」

立花に連れられて、私は保健室へ行った。


熱を計ると、38.3℃


具合い悪い時は、無理して部活やっちゃダメよ!と、保健室の先生に軽く怒られ、薬を飲んで、

一旦休むように言われた。


「立花さん、ありがとう。

西川先生に伝えてくれる?

中野さん、熱で早退しますって」

「はい。中野、あとでカバン持ってくるね!」

「ありがと。立花」


キンコンカンコーーン

キンコンカンコーーン


チャイムの音で目が覚めた。

重かった頭も、少しスッキリしたように感じられた。


1時間目が、終わったのかなと思って時計を見ると、12時20分。


えっ!12時20分?

4時間目終わったんだ!


「あっ、目 覚めた?よく寝てたわね!さっき、熱計ったら、7度2分だったわよ。

薬が効いて下がってきてるみたいね。 

親御さん呼んで迎えに来てもらう?」

「あっ、いえ、仕事でいないので、一人で大丈夫そうです。少しスッキリしました。ありがとうございました。」

「ねぇ、中野さん、何か心配事でもあるの?」

ドキッとした。

「何でですか?」

「うなされてたから。“なんで!” とか “どうして!” とか」

「……大丈夫です」

「そう。じゃ、気をつけて帰ってね。

もし、何か相談があったら、いつでも来なさい」優しく微笑んでくれた。

「はい。ありがとうございます。さようなら」


立花が持ってきてくれたであろうカバンを持って、廊下へ出た。


やっぱ、まだクラクラするな……ゆっくり帰ろう。

げた箱で靴を履いていると、

「中野!」

と、声をかけられた。

振り返ると、それは、えいちゃんだった。

「帰るの?」

「うん」

「大丈夫?」

「なんとかね」

「そっか。気をつけてな」

「ありがと。じゃね」


たまたま通りかかったのかな。

えいちゃん、優しいな。

やっぱり、田坂の親友だけあるな。

田坂、今日学校休みだったかな。

靴ないし、部活も来てなかったし……


「伊藤!田坂がチョコ欲しいってさ!」

か……

やっぱりね。

田坂が好きなのは、やっぱりさとみだったんだ。

あんなに男子の中で噂が広まるほど、もうオープンに “伊藤のことが好きなんだ!” って、みんなに話してるってことだもんね。


『2人のどっちか!』

か……

いっそ、

『伊藤だよ!』

って言われた方が良かったな。

そしたら、

「そうなんだ!お似合いじゃん!」

って、笑って言えたのに……

それで、今まで通りに仲良くすることも出来たかもしれないのに……

今はもう戻れない。

前みたいには、もうなれないんだな……

無視しよう!なんて、バカなこと言って……

さとみを少しでも、田坂から遠ざけたかった。

面白そう!なんて言ってたさとみも、何日かで飽きて、今はまた、普通に田坂と喋っている。

私は、自分で掘った溝が、あまりにも深すぎて、もう向こうには渡れなくなってしまった。

自業自得ってやつだな……ハハハ。

最初から、田坂を応援してあげれば、良かった。

さとみと付き合えるように、手助けしてあげれば良かった。

なのに、ジャマをしようとしたから、バチがあたった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る