7話 中野柚希 ⑦
中1 冬休み
冬休みも毎日部活があった。
すっごい寒いし、雪積もってるし、裸足だし、超キツイ稽古の毎日だった。
でも、楽しみがある!
田坂に会えると思うと、嬉しくて、辛い練習も苦にならないくらい、恋のパワーは大きかった。
部活の時は、私はさとみと1番仲が良かった。
帰り道も一緒方面だから、結構2人でいることが多かった。
明るくて、楽しくて、気があった。
だけど、少しだけ……
「え〜なになに?何のはなしー!?」
これが、口ぐせ。
私が田坂と話していたりすると、必ず話に入ってくる。
それで、また、さとみはすっごく可愛いから、比較されちゃいそうだし。
さとみに田坂をとられちゃうんじゃないかって、気が気じゃなかった。
さとみは、1組の竹林君が本命。
田坂には興味ないはず。
だけど、私が田坂のことを好きだなんて知ったら、きっとモテる子特有の小悪魔な部分が顔を出して、邪魔をするんじゃないか……
なんの根拠もないけど、なんとなくそう思っていた。
だから、さとみには気持ちを気づかれないようにしなきゃって隠していた。
冬休み 部活最終日
水道で、さとみと雑巾を洗っていた。
「終わったね〜!死ぬかと思った〜!」
「死なないけどさ!キツかったよね〜!
倒れるかと思ったよ!」
「でも、意外と倒れないもんだよね!」
「みんな体力ついてきたんだよ。きっと」
「だね〜!おっ!田坂!」
突然、さとみが大きい声をあげた。
えっ?
田坂が、一人でゴミ袋を持って、ゴミ捨て場の方へ歩いて行くのが見えた。
「ね〜中野!田坂に誰が好きなのか聞いてみようよ!」
にっこり笑って言った。
「えっなんで?」
「なんでって〜面白いじゃん!
今がチャンス!
田坂1人だし、ゴミ捨て場には誰も来ないし!
行こ!行こ!」
そう言うと、さとみは走って行った。
「えっ!ちょっちょっと待ってよ!」
さとみのうしろを追って走りながら、ドキドキした。
もしかしたら、田坂は私のことを好きだって言ってくれるんじゃないか?
どうしよう!そしたら、私も田坂のことずっと好きだったって言っちゃおうか!
さとみに聞かれちゃうのはイヤだけど、公認の仲になれたらいいな。
よし!私もはっきり告白して、気持ちを伝えよう!
「田坂ーー!!」
「おっ?何だ?」
「はい!1つ質問!田坂の好きな人って誰?」
さとみは、そんなに足が速くないのに、今はすっごく速かった。
追いついたら、もう質問してた。
「なっなんだよ!おまえら急に!
そんなこと聞かれて、普通言わねーよ!」
田坂は、焦ったように声をうわずらせた。
「まぁ、そうだけどさ〜!
いいじゃん!いいじゃん!言っちゃいなよー!
他に誰もいないしさ!」
さとみがとびきりの笑顔で可愛く言った。
その笑顔を見て、田坂が顔を赤らめた。
田坂が、一瞬真剣な顔をして、フッと笑いながら
「しょうがね〜な〜!
おまえら2人のうち、どっちかだよ!」
と言った。
えっ?えっ?どっちかって?
さとみかもしれないってこと?
そんな言い方じゃ、私も田坂のことが好きなんて言えないじゃん!
“”何、おまえ勘違いしてんの?
俺が好きなのは、伊藤だよ!“”
なんて言われたら立ち直れない……
その間も、田坂とさとみはワーワーと喋っていた。
「俺にばっかり言わせんなよ!おまえらもちゃんと言えよ!ほら!伊藤!」
「内緒でーーす!!」
「あっ!きったねーなーおまえ!」
「あはははは!」
さとみは笑って、手つめたい!って田坂のジャージのポケットに手を入れた。
田坂が照れて顔を赤くした。
その様子を見ていたら、なんだ?この2人って、すごくお似合いなんじゃん!って思えてきた。
あれっ!待って!
私、もしかして、1人で勘違いして浮かれてただけだったのかも……
あの時も、あの時も、田坂との楽しい場面には隣りにさとみがいた。
ちょっと邪魔だなって思うこともよくあったけど……
本当に邪魔だったのは、私の方だったのかも……
今、この瞬間も、邪魔なのは、私……なのかも……
「じゃ、いいや!中野言えよ!」
田坂にそう言われて、私は思わず走り出していた。
耐えられなかった。
邪魔者は……
邪魔者は、私だ!!
走って、部室に駆け込んだ。
帰り道
さとみは、やけに楽しげで饒舌だった。
テレビの話や、大好きなアイドルの話をしながら歩いた。
私は、ショックを隠そうと笑っていた。
「それにしても!」
と、さとみが話題を変えた。
「それにしても!田坂!なんだろうね!あの態度!」
「だよね!ムカついちゃったよ!」
と、私も言った。
「フザけた言い方だったよね〜」
「ほんと、ほんと」
その時、私の頭の中に、ある作戦が浮かんだ。
「ね〜、さとみ!月曜日から田坂のこと無視しない?」
「あっ!いいね!面白そう!少し反省したらいいんだよ!」
「じゃね、バイバイ!」
「バイバイ!」
馬鹿な作戦だった。
これが、あとで自分の首を絞めることになるとは、その時には わからなかった。
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