5話 中野柚希 ⑤
3週間続いた夏休みの部活も、今日が最終日。
ついに打ち上げの日だ。
筋肉痛も最高潮だし、早く部活が終わらないかなぁと思っていたけど、好きな人発表は気が重い。
結局、誰が誰って言うか、決めることができなかった。
とりあえず、トップ3を言おうと思うけど、怖い先輩たちの前で、緊張するだろうな……
ふと、田坂の顔が、頭に浮かんだ。
私、たぶん、田坂のことが好きなんだ。
どこが好きなのかも わからないけど……
たぶん……田坂のことが好きなんだ。
普通に部活をやって、3時から道場で女子だけ、打ち上げ。
先輩がちゃんと先生の許可も取ってある。
普段の練習とかは、男子女子一緒にやっているけど、なんだろう、この何とも言えない女子会。
先輩方の差し入れのジュースを飲んで、持ち寄ったお菓子を食べて雑談。
ここまで、和やかな会だった。
「じゃ、この辺で、恒例のアレをやってもらおうかな!!」
キターーーーーー!!!!
突然の松田先輩の声に、一瞬でシーンと静まった。
「夏休み打ち上げの伝統行事!告白タイムだよ!1年は立って、1人ずつ好きな人を発表すること!!」
高山先輩の説明に、一同
「え〜〜!!」
と言ってみる。
一応、びっくりしとかないとね。
「それじゃ、右端から!原西!」
「はい!」
涼子ちゃんは立つと、
「酒下先輩です」
と言った。
「おーー!渋いね!いい趣味じゃん!」
涼子ちゃんが酒下先輩と言うとは、トップ3でもないし、予想外でびっくりした。
先輩たちの本命とはかぶらなかったみたいだけど、酒下先輩なんて、それギリセーフってくらい?
って感じのかっこいい先輩だ。
初めて聞いたけど、本当に涼子ちゃんの好きな人なのかな。
「はい、次、小沢!」
晶が立ち、お約束どおり
「宮坂先輩です」
と言った。
「あ〜、そんな感じすんな〜!」
「はい次!」
青田「元木先輩です」
洋子「青山先輩です」
塚本「宮坂先輩です」
ゆかり「青山先輩です」
小島「宮坂先輩です」
依子「元木先輩です」
「ちょっと、あと何人?3人?同じ名前ばっかりなんだけど、フザケてんじゃないでしょうねー!?」
さすがに、ちょっと先輩たちもイラついている感じだった。
どうしよ〜〜
残った、さとみ、棚部、私は下を向いたまま顔を見合わせた。
「伊藤!」
「あっはい!えっと〜、1年1組の竹林君です!」
え〜〜!さとみ!マジ告白か〜!
「ふ〜ん、何部?」
「サッカー部です」
「ほーんとー!よし!今度チェックしに行こう!」
「じゃ、棚部!」
「はい。えっと、2年の小杉先輩です」
え〜〜!それはヤバイって!!
「小杉か〜!!ふ〜ん!いいじゃん!ガンバレ〜!」
えっ?セーフだったの?
「はい!最後!中野!」
「あっ、はい!私は、あの、……た、た、た……多尾先輩です」
「多尾ちゃん!!!!」
「わーーーーハッハッハーーーー!!」
「アハハハハハ!マジで〜〜!?」
「ちょっと〜どこがいいの?あのカタブツのー?」
「まっ、真面目そうなところ……です……」
私がそう答えると、先輩たちは手を叩いて更に盛り上がっている。
「そうなの!バカがつくくらいの真面目なの!」
「ちょっと〜!中野とくっつけてあげようよ〜!多尾ちゃんにも春がきた〜〜〜!ってね!」
「今、真夏だけどね!」
あはははははははは〜!!!!
「中野!応援すっから、頑張んな!」
「はい、ありがとうございます」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジャーーーーーー!!!!
「ちょっと!中野!水だしっぱなし!」
さとみが蛇口をキュッとならした。
「あぁ、さとみか……」
手に持っている雑巾をまだ洗ってないことに気づいて、また蛇口を開いた。
ジャーーーー!!
「私、なんで多尾先輩なんて言っちゃったんだろう……」
雑巾をゴシゴシ洗いながら下を向いた。
「しょうがないよ〜あの緊張感!
私なんて、追い詰められて竹林くんって言っちゃったもん!」
「そう!さとみがマジ告白して、次に棚部も本命言うからさ〜。
もうトップ3言えるような空気じゃなかったし……
頭の中真っ白になった……」
「中野、た、た、た、って言ってるからさ〜!
大丈夫?って思ったら、多尾先輩って!あれ、目の前にあった多尾先輩のタレネーム見たからでしょ?」
「そう!ほんと、もう頭真っ白で多尾しか目に入らなかったよ!
あんな盛り上がり方すると思わなかったし……」
「だよね〜!まっ、騒ぎもすぐにおさまるよ!」
「だと、いいんだけど……」
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