2話 中野柚希 ②

 「ゆき、ゆき!!大丈夫?」


えいちゃんが、私の顔を覗き込んでいた。


「えっ!あっ!何?」

カーッと顔が、赤面してくのがわかった。

「えっ、あっ、何、じゃないよー!ボーっとして!

立ったまま寝てるのかと思ったよ!

どうかしたの?」


「ううん、何でもない!」


「んん?これは!もしや〜他の男のことでも考えてたかなぁ?」

首をかしげながら、イタズラっぽい笑顔で言った。


「まさか!!えいちゃんと付き合ってもうすぐ3年になるなぁって考えてただけ!」


「あはははは!3年かぁ。早いな!」

そう言うと、私の手を握って歩き出した。

いつもの優しく温かい手だった。


「あっ!そう言えば、質問!俺らの記念日って、付き合い始めた日って、いつ?」


「やだ!覚えてないんだ〜!9月7日でしょ!」私はちょっと興奮気味に大きな声で言った。


「あーー!やっぱり!それ違うじゃん!

去年もおかしいな〜って思ったんだよな!

それは、俺がゆきに告白した日だろ!

あの時、ゆきの返事聞くのに1週間!!

1週間かかったんだよ!

で、正式にOKもらえて付き合い始めたのは9月14日じゃん!!」

えいちゃんもまくしたてるように、大きな声で言った。


「う〜〜ん。正確には、まぁそうだけど……

私の中では、9月7日に告白された時にノックアウトされたってゆうか……」

ちょっと照れて下を向いた。


「おっ!マジか!そんなこと初めて聞いたよ!

俺の告白でKOされたわけ?じゃ、なんで即OKじゃなくて1週間待たせたんだよ!

嫌がらせか〜?」


「あはははは!嫌がらせなわけないじゃん!

私でいいのかなとか、いろいろ考えすぎちゃって、後輩には泣かれるは、にらまれるはで大変だったよ。

まぁ、協力者に横取りされちゃね。

丸川さんには本当に悪いことしたなぁ」


「どっちにしろ、丸川さんが直接告白してきたとしても俺は断ったから、ゆきのせいじゃないし、ゆきにあたるのはおかしいけどな」


ふと、えいちゃんは握っていた手を離すと、2、3歩私の前を歩き、しゃがんで靴ヒモを結び直しながら、

「朋徳、元気にしてるかな。

ここ最近連絡とってないけど」

と、独り言のように言った。


田坂朋徳


私が中学生になって初めて好きになった人。

初恋の人。

大好きだった。

けど、告白もできないまま、失恋した人。


この人の名前を聞くと、今でも心が、チクッと痛い……


「あ〜あ、明日テストか〜!物理が超ヤバイなぁ!」


「今夜、遅くまでテスト勉するなら、ガンバレコールしよっか?」


「うん!じゃ、1回だけかけてもらおっかな。

1時とかでもいい?」


「いいよ!私もそれくらいまでは普通に起きてるし」


「テストは嫌だけど、こうして、ゆきと一緒に帰れるのは、部活がないテスト期間中くらいだもんなぁ」


「そうだよね!このテストが終わったら、また秋の大会に向けて、お互いに部活三昧の生活になっちゃうもんね!

えいちゃんもレギュラー入りしそうだし、毎日部活で一緒に帰れなくて寂しくなるよ」


急に、えいちゃんは立ち止まり、私の顔をじっと見た。


「本当にそう思ってる?」


「何が?」


「ゆきってさ、剣道やってると、他のこと全部忘れちゃってるみたいなとこあるじゃん!

俺のことも忘れちゃってるかな〜みたいに思うことよくあるよ」

と笑って言った。


「えっ?私?そんな、人格変わらないよ〜。

私が剣道やってる時は、えいちゃんはバスケやってるから、お互いに忙しいし、心の中でえいちゃん頑張ってるかなぁって思ってるよ。

あっ、部活終わりで体育館へ行ければいいんだけど、ちょっと行きづらくてね」


「なんで?」


「マネージャーさんたちの視線が、ちょっとキツくて」


「やっぱ、そうだよな〜!あいつらキチ〜からな〜!

まっ、いいや!とりあえず、家帰って勉強すっか!」


「うん、じゃ、夜電話するね!バイバイ!」

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