三弾目 お腹がすいたから爆弾投げてみた!
まだ、灯り一つ無い3時の朝。私はまだ少し痛い肩と疲れが取れていない体を布団から起こした。いつもより疲れている。そうとさえ感じてしまって気だるい。仕事に間に合うようにすぐスーツに着替え、水分だけ取る。リビングを見るとダイナが寝てる。こんな時間に起こすのは申し訳なく起こさずに家を出ようと思った。バッグに書類を入れて髪を整えた。するとふわっと耳元に吐息がかかった。
「もう行くんだ?ハルカ。俺と少し遊ばない?一人は暇なんだけど。」
彼氏でも無いくせに図々しい奴だ。私はダイナを引き剥がしながら化粧を始めた。
「もうそんな時間無いの。」
「冷た。朝食、いいの?」
「いいの。部屋よろしくね。」
私は子供みたいに我儘言うダイナから話をそらしたくてそう言った。すると不満げに「うぅ~ん…」と声を漏らした。
「体壊すぞ?」
「平気だよ。朝食くらい。」
「………昼何食べるの?」
「……コンビニ弁当?」
私はいつも通りの昼食を言うのに少し躊躇ってしまった。ダイナは少し低い声で言った。
「何時に出勤?」
「6時から会議。でも、まだ仕事残ってて片付けないといけないから5時。」
「早っ。で、帰ってくるのが12時すぎ?社畜じゃん。もっと体大事にしろ。」
爆弾魔の癖に言うことは正論。少し、苛立ちが生まれた。そんなのわかってると。しかし、そうは言えなかった。だって、ダイナの声は低く、冷たい声だったから。顔は見えないけれどきっと怒っているのだ。私は口を噤んだ。
「…もういいよ。早く準備しな。」
ダイナは私から離れるようにしてそっぽ向いた。
っ……居候してる身が図々しいのよ。
そうも思いながら「行ってきます」と言った。すると「行ってらっしゃい」と返してくれた。それが慣れなくて暫く耳に残った。職場に急いだ。通報するなら今。しかし、何故通報する可能性のある私をこんなふうに見逃したのだろう。何かまだ作戦があるのだろうか。そしたら無理に通報するのは命取りだ。どうするべき?私はそうも思いながらスマホ画面に映し出されたコールボタンを押せないでいた。結局スマホを閉じ、仕事に取り組んだ。またも憂鬱な日々の暗い朝。日差しが入ってこない職場のパソコンとにらめっこをする。
………今日もようやく終わった。はぁと息が漏れる。目も体も肩も痛む。早く、家に帰りたい。そう思いながらまだ残ってる明日分の書類の山を見た。席を立った。クラ〜っと頭が痛んだがバッグを持って職場を後にした。
家に帰る最中、突然足元に爆弾が転がってきた。私は驚きながら短く悲鳴を上げ、疲れた体を精神から離した。パタンとお尻を地面に打つ。後ろからはクククと喉を鳴らした笑い声が聞こえてくる。
ダイナ。
そう思った途端「大丈夫?」と愉快げに声を高めたダイナが私の顔を覗き込んだ。今にも顔が当たってしまいそうな近さで見つめられる。ドクンッと心臓が鳴るとダイナは離れ、尻もちついた私を見下ろした。
「お疲れさん。」
「ダ、ダイナ…。」
「ハルカを迎えに来てやったぞォ!!」
と夜なのに大声なダイナ。私はダイナが大きな立派な手を差し出してくれたからその手を借りて立ち上がった。クラ〜っと頭痛がする。目眩にも見舞われ思わずダイナにもたれかかる。
「おーおー大丈夫じゃなさそうだなァ。」
「なんか、あんたが来てからヤケに疲れるの。」
「俺のせいじゃん。」
「あんたのせいよ。」
そんな会話を軽くしながら家に帰った。
家は驚くほど綺麗になっていた。
「え!?」
「ハハハすごいだろ!?」
「本当にやってくれたんだ?あんたが?」
「そうだよ!!!」
まさか、破壊しか出来ない爆弾魔がこんなに掃除上手だったとは!想像もしなかった。書類も綺麗に整理されていて驚いた。
「さァ座ってご飯冷めるで!」
ご飯!?そう思いながら見た方にはハンバーグと彩り豊かなサラダが盛り付けられていた。
「いやーハルカの冷蔵庫なんっも無くて焦ったわ。すぐさまスーパー直行した。うまいから食べてみ?」
そう言うのでバッグを置いてスーかツのままハンバーグを箸で切り離した。柔らかく良い香り。それをパクっと口に入れた。ダイナはじーっと私を見詰めている。口いっぱいに広がったのは美味しい肉とソースの味。とても美味しい。ポロポロと涙が溢れる。
「…美味しい…。」
「そりゃ良かった!」
ダイナは満足気に笑う。
社畜の私と出会った爆弾魔はまさかの超家庭系男子だった。
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