第34話 本当の仲間

 ムラン達の話を聞いた。

 どうやら、俺にしたい話があるらしい。

 それも、機密性のある依頼をギルドから受けたというのだ。


「……そこまではわかった。

 だけど、今更俺に何の用だ?」


 宿の椅子に座りながら、俺は横目で窓の外に視線をやる。

 ムラン達が自警団を連れてきた可能性を考慮してだ。

 だがどうやら、取り囲まれているということはないみたいだ。


「俺達四人パーティが受けた依頼だ。

 他の人間に聞かせるわけにはいかない」


 その言葉に牙を剥いたのは、アン。

 彼女はベッドから立ち上がると、俺とムランの間に割って入った。


「四人パーティ?

 フェルを一方的に追放したのは、キミたちでしょ?」


 だが驚くことに、ムランはその言葉に動じなかった。


「ああ、確かにそうだ。

 だが俺達は気が付いたんだ。

 フェルこそが俺達の中心だったと」


 アンは周りに聞こえるように舌打ちをすると「白々しい」と吐き捨てた。

 

 その言葉など聞こえていない様子で、ムランは続ける。


「だから、話だけでも聞いてくれないか?

 フェルならわかってくれるはずだ」


 シェリーは、心配そうに俺の顔を眺めている。


「フェル……どうします……?」


 今更考え直そうが、もう遅い。

 だがこの先付きまとわれても面倒だ。

 一言ガツンと言ってやらなければ。


「……わかったよ、話くらいは聞いてやる」

「そうか……なら、噴水のところに行こう」


 ……機密性がある話なのに、往来で話そうというのか?

 俺はそこに、きな臭さを感じた。


 この状況でシェリーをここに置いていくなんて、今まではできなかった。

 信頼できる奴がいなかったからだ。

 でも、今の俺には最高の仲間がいる。


「三人とも、強化魔法をかけておく。

 特にアン、シェリーを頼んだ」


 アンは俺の言葉を聞いて、目を丸くした。

 だが次の瞬間には、表情をキリっと尖らせた。


「うん、任せて!」


 俺はムランの案内に従い、噴水のある広場へと向かった。

 噴水に着くなり、ムランはその縁石に腰を下ろした。


「悪いな、フェル。

 わざわざ来てもらって」

「別に。

 それで、話ってのは?」


 ムランは広場を歩く往来を眺めた。

 それから、小さく息を吸い、俺の目を見つめてくる。


「ほかでもない。

 プリンセスのことだ」

「なに!?」


 おかしいとは思っていた。

 なぜムランが俺達の宿を知っていたのか、なぜ話をするのに噴水を選んだのか……。

 やはり、こいつはシェリーの正体を知っている!?


「プリンセスは今頃、王国の近衛兵たちが捕らえただろう。

 お前も、じきに捕まる」


 っていうことは、噴水に俺をおびき寄せたのは、罠か!


「どうしてお前がシェリー……プリンセスのことを知っている!?」

「極秘裏に頼まれたんだよ、王国からな。

 だが、王国もことを大きくしたくはない。

 お前が冒険者に戻り、今後何も企まないなら、姫攫いの罪は水に流すらしい」

「なんだと……」


 確かに、王室内で何か騒ぎが起これば、シェリーが攫われたことを勘繰る奴も出てくる。

 王国のその決定も、頷ける……のか?


「お前が何のために姫を攫ったかは知らないが、俺達はトップクラスパーティ。

 女に困ることはない。

 戻ってこないか、フェル?」


 戻れっていうのか……俺を追放した連中の下に。

 そんなの、納得できるはずがない。

 最初に追い出したのは、ムラン達だろうが!


「今後付きまとわれても嫌だからな、はっきり言わせてもらう。

 もう遅いんだよ、ムラン。

 最初に俺を追い出したのは、お前たちだろうが!」

「……そうか。

 だが、俺達の下に戻る以外の選択肢は、お前にはない。

 プリンセスは、すでに王国が捕らえているんだぞ?」


 シェリーが捕らえられた?

 そんなこと――。


「ありえないな。

 アンとスノウが、王国の兵士なんかに負けるわけがない」

「なに……?」

「お前たちより、よっぽど頼りになるんだよ!」


 ムランは「そうか」と呟くと、ゆっくり噴水から立ち上がった。


「お前があくまで悪党を貫くっていうなら、俺達はお前を倒さなくちゃならない」


 ムランは大剣を、トラとタラはメイスとハンマーを構える。


「姫!

 これから悪党を退治する。

 そこで見守っていてくれ」


 いつの間にか俺の背後に立っていてのは、姫……。

 こいつのせいで、このパーティは崩壊した。

 それなのに、まだムラン達は姫に執着しようというのか。


 まあいい。


「ボコボコにしてやるよ……!

 あの時の、俺の分までな!」


 俺は聖剣を引き抜き、ムラン達に向かって構えた。

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