第24話 キマイラ・ドラゴン
確かに目の前のドラゴンは脅威だ。
小さな家程はあろう巨体、どれほどの力を持っているのだろうか?
未知のドラゴンであるがゆえに、奴の戦力は計り知れない。
だが俺達の目的は奴を倒すことじゃない。
スノウの救出と、人をあんなドラゴンにしたやつをぶっ飛ばすことだ!
俺は怒りに支配されそうになりながらも、何とか自我を保つ。
聖剣を引き抜き、スロウへと向き直った。
幸いドラゴンの動きは鈍い。
これなら、奴に攻撃される前にスノウを救出することができる。
「スノウ、大丈夫か!?」
スノウは焦点の合っていない瞳を、俺へと向けた。
視線が震えている、相当衰弱しているみたいだ。
「お、おとう……さん……」
「今助けるからな!」
スノウに近付こうとした瞬間、俺は「見えない壁」にぶつかった。
バリア魔法か!?
「クソ!」
このバリア、強力だ。
俺の攻撃では破れそうにない。
だったらせめて、スノウの衰弱を防げればいいんだが……。
「スノウ!
強化魔法をかける、足かせを外せそうか?」
「だめ……これ付けてから……力が入らなくて……」
これ、と言うのは足かせのことだろう。
足かせを付けた途端、力が入らなくなったということは、呪術をエンチャントした枷ってことか……。
となると、俺の強化魔法をかけても、意味がない。
俺の強化魔法は、あくまで基礎ステータスを伸ばすものだ。
呪術でステータスが落とされているのだとしたら、強化幅も狭くなる。
とりあえず、スタミナブーストを掛けてみる。
呼吸に合わせて上下していたスノウの胸が、少し落ち着いたようだった。
今俺ができることは、これだけか。
「無駄無駄。
そのバリアは絶対に破れない」
館の主は、嗤いながらそう言った。
「テメェ……」
「だけど、いいことを教えてあげるよ。
そのバリアの魔力元は、キマイラ・ドラゴン。
つまり「みんな」を倒せば、バリアは剥がれる!
……本気になる理由が出来ただろう?」
この男……そうまでして、どうして俺達をドラゴンと戦わせたがる……?
とりあえず、そんなことはどうでもいい。
ドラゴンを倒せばいいとわかったなら、戦ってやるだけだ。
俺はドラゴンに向き直って、剣を構える。
見たところ、動きは鈍い。
これなら、先手必勝で勝てる!
「はぁあああああ!」
俺は剣を持ってドラゴンへと駆け寄る。
狙いは頭、一撃で葬り去る!
だが――!
ガキィンと言う音が、地下室に響き渡る。
俺の一撃を防いだのは、バリア。
スノウに強力なバリアを張る魔力元が、自分を守らないはずがない。
ぬかったか!
だが、驚いたのはそこではない。
俺が気付いた時には、巨大な前足が振り上げられていたのだ。
速い!?
そしてドラゴンは、俺を踏みつぶさんと足を振り下ろす。
「ぐっ!」
俺は振り下ろされた奴の足を、受け止めた。
指と化した人間の顔が、俺の眼前に迫る。
「たすけて……たすけて……」
もはや声にならない声だが、そこだけは聞き取れた。
助けるったって……どうやって……!
「倒すしかないってことかよ!」
俺は奴の足を弾き飛ばそうとした。
だが、力負けしているのは、俺の方だった。
ぐんぐんと足を押し込まれ、今にも踏みつぶされそうだ。
「クッソ、オールブースト!」
自らに強化魔法をかけるが、それでも奴の怪力には追い付かない。
「マッスルブースト!」
二重の筋力強化、これでも押し返せない。
このままでは……。
俺の力は全く歯が立たず、ついに俺は踏みつぶされてしまった。
「フェル!」
シェリーの声が響く。
だが、ただでやられる俺じゃない!
「ディフェンスブースト!」
防御力強化。
外皮だけでなく、内臓まで強化できるこの魔法で、俺の体はつぶれずに済んだ。
耳元で指となった人々のうめき声が聞こえる。
そんなに苦しいなら、早く楽にしてやらなければ……。
ドラゴンはつぶせないと気づいたのか、体重をかけることをやめ、一度足を振り上げる。
そしてもう一度その足が振り下ろされそうになった瞬間――。
「ラピッドブースト!」
素早さ強化を用いて、奴の足から逃れた。
「はぁ……はぁ……どうしたもんか……」
そもそもバリアで急所が狙えない今、アンは当てにできない。
アンは暗殺者らしく、攻撃の機会をうかがっているが、うまくつかめないようだ。
その時だった。
ドラゴンが、大きく息を吸ったのは。
何をするつもりだ、何かしらの属性のブレスか?
俺は身構え、奴の攻撃を避ける用意をする。
同時に、アイアンスキンを唱えることも視野に入れた。
だが、奴が吐き出したのは、ただの息だった。
「な、なんだ!?」
そこで俺は異変に気が付く。
俺の体が、動かないのだ……。
麻痺属性の攻撃!?
いや、スノウの足かせを考えると、これは呪術か!?
「な、何!?
体が……」
息を直接食らっていないアンも体が動かないようだ。
ということは、奴の脅威は息ではなく、声と言うことか!
グオオオオオとドラゴンが雄叫びを上げる。
そしてもう一度、大きく息を吸い込んだ。
先程と違うのは、口元に炎を溜めていること……。
体が動かない状況で、あんな攻撃を食らえば……。
だが無慈悲にも、奴は口に溜めた火球を、俺に向かって射出した。
触れたものを、すべて焼き尽くさんとするほどの高熱が、離れていても伝わってくる。
それは、床のタイルをも溶解させつつ、俺へと向かって……。
「フェル!」
不意に、シェリーの体が、俺に押し付けられた。
力の入らない俺は、そのまま押され、シェリーと共に地面に倒れる。
火球はシェリーの背中を擦過すると、そのまま錬成陣の書かれた壁を破壊した。
「ぐは……!」
まったく無防備な状態で、地面に叩きつけられる俺。
危なかった……シェリーがいなければ、今頃俺はあの世にいたことだろう。
だが、シェリーもあの声を聞いていたはずだ。
なのに、なぜ動ける?
その時だった――。
――ドクン。
と脈打ったのだ、聖剣が……。
俺の手に掴まれたまま、地面に転がる聖剣に視線を落とすと、シェリーの手が重なっていた。
あの時と同じ、シェリーの手が触れた瞬間に、聖剣が脈打ちだした!?
その鼓動は、見る見るうちに早くなっていく。
呪術の影響を受けないシェリーに、真の力の片鱗を見せた聖剣。
奴を倒すカギは、ここにあるということか!
「そ、その鼓動……まさか……!」
聖剣の鼓動が聞こえたのか、館の主が血相を変える。
この男、聖剣のことを知っている……?
同時に、ドラゴンもぎょろりと目を剥き、俺へと咆哮した。
氷の竜と同じ、このドラゴンも鼓動を聞いた瞬間に、俺を敵とみなしたようだ。
先程と同じ呪術の咆哮を放つドラゴン、だが今の俺には効かない。
聖剣の鼓動のおかげか、俺の体は自由に動くようになっていた。
「これも、聖剣の力……?」
男は聖剣と言う言葉を聞き、大きく取り乱した。
「き、聞いていないぞ!
聖剣がこんなところにあるだなんて!
し、しかもインフェクターまでセットだなんて!」
この男、やはり何かを知っているようだ。
まあいい、この戦いが終わったらみっちり聞き出してやろう。
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