第13話 冷える夜

「頑張れ頑張れおとうさ~ん!」


 シェリーとアンを乗せた荷車を、俺は一昨日と変わらず引いていた。

 一つ変わったことと言えば、俺の頭の上で応援歌を歌う小鳥が増えたことか。

 応援で元気に荷車を引けるようになるかというと、そうでもない。

 むしろだんだん鬱陶しくなってきたほどだ。


 とはいえ相手は生まれたばかりの雛、厳しくしかることもできず、今に至る。

 荷車に揺られている二人は、いい具合にくつろいでいる。

 といっても、長時間乗っていると腰に来るようだが。


「フェル、休憩をなさらなくても大丈夫ですか?」

「まあ、体力が尽きることはないからな。

 魔力が尽きることはあるが」


 たまにこうして、シェリーが心配してくれるのが、唯一の心の拠り所だ。


 現在俺達は、王国を出た後、最前線とは真逆へと進んでいる。

 ザシーンカ王国を目指しているからだ。

 ザシーンカとの間にもいくつかの街がある。

 この次の村を超えた先にある、ウィドウの街がひとまずの目的地だ。

 結構な大きさの街故に、しばらくの拠点とするには丁度いいだろう。


 荷車を引を引いていた俺達は、無事に次の村へとたどり着いた。


「通行証を拝見させていただきます」


 門番は、人が荷車を引いている光景に眉をひそめながらも、通行証の提示を求めてきた。

 こういった通行証代わりに使えるのが、アメリさんからもらったライセンスだ。


 俺達は行商のライセンスを門番に見せ、村の中へと入っていった。


 その時、荷馬車から可愛らしいくしゃみが聞こえた。

 シェリーのものだろう。


「す、すみません……少し冷えてしまって……」

「寒いのか? あいにく、寒さをしのげるようなものは少ないぞ」


 使えるものと言えば、以前シェリーが纏っていたマントくらいか。

 あれもぼろマントだからな、ないよりはマシだろうが……。


「私も、寒くて凍えそう。

 プリンセスも使う?」


 そう言うと、アンはどこからともなく毛布を取り出し、半分をシェリーに使わせた。

 こいつ、何にでも収納魔法を使っているのか?


 まあそれは置いておいて、そんなに冷えるか?

 荷車を押していると、暑くて仕方ないんだが。


 村を行く人々を見ると、皆が防寒対策のされた服装をしている。

 みんな、寒いのか……。


 シェリーの体が冷えてはいけないので、俺は急いで宿屋を探すことにした。

 宿屋に入れば、流石に体が冷えるということはないだろう。


 宿屋を見つけた俺達は、カウンターで部屋を予約する。

 三人という大所帯だ、できれば個室にしたかったが、またもや一部屋しか空いていないらしい。

 なんでも、部屋自体はあるが、シーツがないというのだ。

 みんながみんな寒さを訴えて、防寒に使えそうな道具は全部使用中らしい。


「おかしいと思わない?

 ここはこんなに、冷える場所ではなかったはずだけど」


 宿屋の部屋の椅子に座り、アンは言う。


「確かにそうですね。

 グランソルムと比べても、気候条件に違いはないはずですし――」


 シェリーも、違和感を抱いているようだ。

 確かに、宿屋のシーツが争奪戦になるなんて、おかしいことだ。

 この周辺で、何かが起こっているのだろう。


「――それに、神鳥ちゃんもふっくらしてますものね」


 シェリーはそう付け加えた。

 俺の頭の上にいる神鳥も、心なしか膨らんでいるように見える。


「冬毛モードだよ!」


 なるほど、流石神鳥。

 その場の気候で即座に毛を生え変わらせることができるらしい。


「こりゃ、調査する必要がありそうだな!」


 俺は久しぶりに冒険者らしいことが出来そうで、内心ワクワクしていた。


「調査? そんな事せずに、早々にこの村を離れた方がいいと思うけど?」


 だが、アンは調査に反対らしい。

 まあこいつの職業は暗殺者。

 冒険者のロマンは理解できないのだろう。


「まあまあ、誰かの為になることをするのも、大切なことですよ。

 徳を積むのです」


 そんなアンをたしなめてくれたのは、シェリーだった。


「ってことで、明日は調査だ!」


 原因は何だろうか?

 もしかしたら、未知の魔物かもしれない。

 俺は一人、心を躍らせるのであった。

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