見るな! 見るな!
見るな! 見るな!
今日はいささか懷が
細君に何か旨い物でも喰はせて遣りたい
お慰みといふことをして遣りたい
といふのは三割がた
愚生が一杯氣色のいい機嫌になりたい
かういふ
料理屋の
賴む
と
待て
と云ふので
片附かない窮屈な心持を抱へてゐると
綺麗な御婦人連を
番頭の案内で次々と奧に通つて行くのに
二人ぽつねん殘されて
いつかう見向もされぬので
すつかり降參
御馳走は止しにして
すごすご店を出ると
いかにもお腹が空いてゐるので
とにかく目に附いた
汚い暖簾を
いささか奢つて
天麩羅饂飩を賴んで見たら
案の定これが旨くない
いよいよ心も
お銚子を 一本 もう一本
細君はと見ると
けふはほんたうにありがたう
僕に
不味い饂飩をにこにこ啜つてゐるから
もうその顏がまともに見られず
お銚子ばかり もう一本 もう一本
酩酊の
細君に腕を抱へられふらふら
人が
見るな 見るな
大きな
細君が
それでもにこりとして
一生懸命
僕の脊中をさすつてゐるから
いよいよ
ますます大きな聲で
見るな! 見るな!
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