猩猩

  猩猩




猩猩しやうじやうの指は杯ではなく

哺乳甁を握つてゐた


猩猩の唇は柔らかかつたが

何事をも語らなかつた


猩猩の瞳は見詰めてゐた


好意を好意として

狡猾な惡意をもまた好意として


或いは 彼は


   (他をさいなみ續け

    自らもまた苛まれ續ける惡意の聯鎖)


人には不可避の惡意の聯鎖を


自らに受け止め

終着させることを

穩やかな胸裡に覺悟してゐたのかも知れない


全ての現象を


   (存在そのままの必然として)


從容と受け入れるべく

彼は穩やかに覺悟してゐたのかも知れない


決しておもねることはなく


無作爲の天然として







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