第九 べかかう

  べかかう



耳の奧がしいんと鳴つてゐます

二六時中にろくじちゆう しいんと


何時いつから かやうな按配あんばいなのか

 一向いつかうに 見當けんたうかぬのです


  思へば


昔からずうつと かうだつたもします


長らくそれ氣附きづかず

やうやつとさとつたやうな


     そんな風にも思はるるわけです


さうして

  さとる前と覺つたあとでは

       悉皆しつかい樣子やうすが違ふやうです


僕は 最早もはや


   此音このおとから


    一生涯いつしやうがい逃るるすべもありますまい


それでも


しいんとした音に

しいんとした心持こころもちひたしてゆけば


じつに實に 靜かなものではあるやうです


 かうして  しいんと


  しづかに  晩年を暮らして行くのも

  或いは  僕の宿業すくごふでありませうか


  しいんと響く

  音にも重ねて  しみじみ眺むれば


   あれ あのとほり

   あんなふう恰好かつかう


吸葛すひかづらの花も 露草つゆくさの花も


   みいんな べかかうをしてゐるのです



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る