川野土左衛門のいふこと
川野との出会い
暖かな日であった。隅田川のほとりを歩いていると奇妙な
お天道様の高いうちからいい気なものだと思いながら男に近づき、驚嘆する。
男の身体が力士のように膨らんでいるのである。さらによく見れば半身が川に浸かっている。これだけ肥え太れば春の陽気も
好奇心からしばらく眺めているとこちらに気づいた男は低く、くぐもった声で話しかけてきた。
「おまえはなぜ俺を見るのか」
なぜ、と言われても奇妙であればどうしても気になるものだ。この膨れた男の素性が気になり、君は何者か、と問うと
「分からぬ、なぜここで伏しているの見当もつかない」
などと答える。名前も思い出せぬ様子なので適当に
この川野は自分の名前も故郷も分からないと言うが、どういうわけか仲間から聞いたという怪談話は明瞭に記憶しているようだった。
小生は怪談話が好物である。これ幸いとばかりに川野からいくつかの奇譚を聞き及び、この章に書き納めることにした。
時に天明四年、弥生の頃合であった。
※天明四年…1785年
※弥生…旧暦3月。新暦では3月下旬から5月
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