青年期ささたけ(大学生) 小説編

 大学生ともなると、今までの様に貧乏を嘆く必要もない。

 なんせアルバイトができるからだ。

 そのため、私は大学生になってから加速度的に書籍を買い集めた。




 ――などというのは真っ赤な嘘である。




 もちろんバイトはしていた。

 むしろ私は苦学生と呼ばれる部類の人間だったので、しなければ生活ができなかった。ちなみにこれは小さな自慢であるが、生活費を稼ぐためにバイトを増やすのではなく、成績を上げて授業料の免除申請を通していた。案外知られていなかったが、貧乏は貧乏なりに学ぶ方法はあるのである。


 それはともかく。


 限られた資金の中で買うとなれば、必然的に購入するだけの価値が求められた。

 要するに、費用対効果コストパフォーマンスに優れたものである必要があったのだ。


 とはいえ。


 皆さんもこう思われると思う。


「コスパに優れた本ってなんだよ!」


 もっともである。書いている私自身がそう思う。

 しかし。

 当時の私は思ったのである。


「一冊当たりの情報量が多い本ならば、コスパに優れていると言えるのではないか?」


 ――と。


 浅はかである。だったら専門書でも読んでいろと言いたい。

 しかしそんな浅はかな思考で、私はついに手を出したのだ。


 姑獲鳥の夏(京極夏彦 著)


 この本を見つけた当初、私は歓喜した。

 ともに立ち並ぶ書籍とは一線を画す厚さ。

 そこかしこに敷き詰められている漢字。

 立ち読み程度では理解できないほど含蓄あふれる文章。

 これこそが高コスパ小説であると思ったのだ。


 なお本来は、続編の「魍魎の匣」の厚さに惹かれたのであるが――とりあえず「姑獲鳥の夏」の話とする。


 当時、私の周りに熱心な村上春樹信者(通称ハルキスト)や綾辻行人ファンはいたのだが、なぜか京極夏彦ファンは存在しなかった。唯一話が通じそうな友人は夢枕獏のファンであった。私が京極作品が好きと言うと、王道に沿わない偏屈者的な扱いを受けていたのである。

 そこで私の悪い虫はうずきだした。


 マイナー志向である。


 白状すると――今となってはだいぶ後悔しているのであるが――私はこの時の経験が元で、村上春樹や綾辻行人の作品は一切読んでいない。いずれ読もうと思って購入だけはしてあるが、今なおその機会は無い。

 ちなみに私が作品において三点リーダー(……)を使用しないのは、紛れもなく京極夏彦の影響――ではなく単純に、ダッシュ(――)と三点リーダーの使い分けを考えるのが面倒なだけである。


 創作者としては失格かもしれない。

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