嫉妬の勝利

コップをもって給湯器に向かうと、そこから誰かの会話が聞こえる。

「ねえ、皆川さんに、告白するつもりなの?」

「まあ」

「でも、あの人、斎藤さんと付き合ってるって噂でしょう。」

「知ってる」

給湯室から人影が出てきた。同僚の立花だ。隠れる暇もなく鉢合わせてしまった。

「斎藤さん、今の会話、聞こえてたの?」

「はい」

気まずい空気が、漂っている。給湯室から小宮も出てきた。

「ねえ、皆川さんと別れてくれない?」

「嫌です」

「あっ、そう。まあいいわ。」

小宮カスミは、私を睨んで、先に出てきていた立花と、一緒にオフィスへと戻って行った。

告白をしたところで、皆川は私と別れるはずはないと確信はあった。

 自分のデスクに戻り、少し離れたデスクに座る小宮に視線を向ける。小宮はコールセンター業務中で、仕事用の声である高い声で話しているようだ。

「斎藤さん」

後ろから声が聞こえてきて、振り返ると立花がメモ用紙に『別れてほしい』と紙を私のデスクに貼りつけて、「お願いね」と、その場を離れて行った。ただ、それを破って、足元にあるゴミ箱に入れた。

パソコン画面から、受信対応のコールが鳴る。

「はい、こちら、ジュラインセンターです。」

テレビショッピングで商品の購入手続きの対応を始める。その間、どこかで、小宮の視線を感じていた。



『別れよう』

皆川からメッセージが、スマホのロック画面に表示されていた。電車の中で、叫びたくなっていた。何なのだろう。小宮と立花の話を立ち聞きして、2日が経とうとしている。その間、皆川に連絡をしたが、仕事が忙しいから会えないという連絡があった。小宮は告白をしたのだろうか。画面を睨みつけながら、小宮への怒りが込みあげた来る。何でもいいから文句を言いたい。返事を打つことも、既読することもできなかった。

 電車が駅に停まり、カップルらしき男女が入って来た。

「何でお前まで、乗って来るんだよ」

「だって、大ちゃんが好きなんだもん」

「キモイだけど、くっついてくるなよ」

馬鹿カップルの会話を見せつけられてるようで、苛立ちが最大になっていた。入り口付近に立って、最寄り駅はまだ先だったに、次の駅の笹木で降りていた。今はカップルを見ることが、嫌でたまらない。次の電車を待とう。ベンチに腰掛けて、スマホを眺める。皆川への返答に困る。あの男なら、別るときに、SNSで告げてくる事は分かっていた。付き合おうもSNS上だったからだ。それに、誰かに相談したいが、誰にも相談したくない。別れを告げられたなんて、恥ずかしくて、できなかった。

「斎藤さん」と声が聞こえてきて、見上げると、小宮だった。

「私が、皆川さんに告白したと思ってるでしょう」

「はい、告白したと思ってますよ」

いかにも不愉快なのこと伝えるように、怪訝な声を出すように言った。

「フラれたわよ。私は」

「そうなんですか」

こんなことをわざわざ言いに来たのだろうか。

「そういえば、なんで、小宮さんがここにいるんですか」

「斎藤さんが駅を降りたからよ」

後をつけらえていたようで、気分が悪い。

「皆川さんって、告白して付き合うことになったのは立花さんよ」

脳が全く機能しなくなった。

「それが言いたかっただけよ。じゃあ」

小宮はその場を去っていた

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