神父ロメオ様

ロメオに助けられ、ついて行った先は修道院だった。


(やはり牧師さんか?)


町はずれではあるが、立派な建物だった。


「あの、さっきはありがとうございました。」


タダヒトは感謝の言葉を言う。


「いえいえ、私は感謝されるようなことはしてません。」


本当にいい人に助けられたようだ。


「ただ・・・立て替えてしまった以上、法律にのっとって働いてもらう必要があります。」


「はい。それはもちろん支払います。」


この人には大きな借りが出来てしまった。異世界人だがそれを必ず返すのが道理だろう。


「あなた・・・そういえばお名前聞いていませんでしたね?

私はロメオ=ミシェール。ご覧の通り、この修道院の管理をしています。」


「俺はミナシタダヒト、ニホンという国から来ました。」


「ニホン?聞かない国ですね。」


「信じてもらえないと思いますが、異世界から来ました。」


「異世界人!?伝説の勇者と同じか!?」


「ま、前にも異世界人が居たんですか!?」


「ええ。たまに異世界人と名乗る人がいます。だいたいは伝説の勇者の真似事ですが、

稀にこの世界に存在しない持ち物を持っている場合があり、その人は本当に異世界人と言われています。」


「この世界に存在しない持ち物ですか・・・あ!」


「どうしました?」


「実は持ち物を村の外に隠してて・・・大体の持ち物はそこなんですよ。」


海外では物を盗まれることが多いため、念のため目につきやすい持ち物は隠していた。


「そうですか、では後ほど小間使いと共に回収しておいた方がいいでしょう。」


「すみません。」


「あとニホンという国から来たとおっしゃっていましたが、硬貨とかお持ちですか?」


「はい。それなら今持っています。」


財布だけは手放さなかった。


「でしたら硬貨を確認できますか?伝説の勇者もニホンという国の硬貨を数枚持っていて、

それが内密に伝承されています。それが確認出来ればあなたも同じところから来たと言えます。」


「マジ!?やった!」


そう言い、タダヒトは持っている硬貨を差し出した。


「た・・・確かに本物ですね。書いてある字が少し違いますが、同じもののようですね。」


「もしかして製造年月のことを言ってますか?」


「はい。伝説の勇者も同じ硬貨でも作った年月で字が違うとも言っていたことが確認されています。

確か・・・昭和30年と昭和33年の10円、昭和40年の100円、

あと何円か忘れましたがもう数枚と、お札を少々お持ちだったようです。」


「へぇ、古い硬貨ばかりですね。」


昭和とか、どれもタダヒトがいた時代の数十年以上昔の物である。


「とりあえず、硬貨を持っているということは他の持ち物も異世界人の証明に成り得る。

早急に取りに行った方がいいでしょう。カウ、同行しなさい。」


カウと呼ばれた男はロメオの言葉に黙って頷いた。


「この男はカウ。喋れないが腕の立つボディガードです。道中の安全はこの男に任せてください。」


「何から何まですみません。」


こうして一先ず、荷物の回収に向かった。




荷物の回収は何事も無く終わった。


(ボディガード必要ないじゃん。)


ともあれ、あったらあったで困る。


「戻りました。」


ドアを開けると同時に数人のシスターに出迎えられた。


(そういえば、ここのシスターはメイドみたいな事をするんだな。)


修道院の掃除、調理、洗濯など、全てシスターさんがやっている。


「タダヒトさん、おかえりなさい。早速ですが持ち物を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


ロメオが奥から現れ、部屋に案内される。


「はい。これが俺の持ち物です。」


バイトの帰りだったので荷物は小さなカバン一つで済んでいる。


携帯、バイト先のIDカード、そしてコンビニで買った晩ごはんと飲み物、

雑誌、買い食いで出たゴミが入ってた。


「なんだか伝説の勇者の持ち物よりも難解な物が多いですね。」


「その伝説の勇者がいつの時代から来たかわかりませんが、

数十年で大きく変わったので、そう感じるのかもしれませんね。」


「わかりました。では・・・申し上げにくいのですが・・立て替えの話をしますね。」


「あ、はい。」


「事実上、私はあなたの仕事の代金を立て替えたことになっています。」


「はい、ありがとうございます。」


「そして法律にのっとって、立て替えの証明を身に着けてもらいます。」


「身に着ける?」


「はい、こちらの首輪です。」


「く・・・首輪ですか?」


「はい、立て替えの返済中のため、手出し不要と周りに見せるためです。

周りにも何人かいますでしょ?」


周りを見るとシスターの大多数が着けていた。


「彼女らももしかして?」


「はい、私の立て替えに対する返済を奉仕という形で返済しています。」


「な・・・なるほど。」


「彼女たちもそうですが、首輪をつけている者への手出しはしないよう気を付けてください。

手伝いは横着と見られ、返済の対象となりませんので、互いに注意してください。」


「わ・・・わかりました。」


借金の返済中だからメイドさんのようなことをしていたのか。


「そしてタダヒトさんは冒険者志望でしたので、冒険者の仕事をしながら返済していく形にしました。」


「おお、冒険者としてレベルを上げながら出来るんですね?ありがとうございます。」


「問題なければ首輪を身に着けてください。」


「はい。」


この人にお金を立て替えてもらったのは事実だ。


タダヒトは何の疑いも無く首輪を身に着けた。


「では、間もなく日が暮れますのでお仕事は明日にし、今日はゆっくり休んでください。」


ロメオはそう言い立ち上がると、部屋へ案内してくれた。


「とりあえず今はここが空いていますので、この部屋を好きに使ってください。

修道院という場所柄、部屋には必要最低限の物しかございませんが・・・」


部屋は広くないが、人が一人寝るスペースと少量の荷物を置く棚があるだけだった。


「いえ、十分です。ありがとうございます。」


寝るだけの部屋だ、問題ないように感じた。




食事後、とても眠たくなってしまった。


慣れない世界で疲れたのだろうか?


何から何までお世話になって・・・いい人に出会えた。


明日から冒険者としての日々が始まる。


魔王は居ないらしいが世界の英雄になって、富や名声を欲しいままに手に入れる。


明日から異世界召喚された英雄として、あの漫画やアニメのような展開に進んで行くのだろう。


そういった想いを胸にタダヒトは眠りについた。

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