お助けキャラ?

「おいおい、何だよこれ。」


そこは見るからに荒れていた。


案内された角を曲がるとそこは町はずれ、つまり町の端っこだった。


そこには酒場がポツンとあるが、その周りにはガラの悪そうな連中がウヨウヨしていた。


「歴戦の猛者だよな?」


近づくとそいつらがギロリと睨んできたので、そそくさと中へ入る。




ギイ!




扉を開けると、また注目された。


(うひょ~~こえぇ~)


ギロリと睨み付けるような目は苦手だ。


中はいくつかテーブルがあり、ガラの悪い連中が酒を飲んだり、

カードで賭け事をしていたりと、物語ではよくある光景だった。


散らかっていたり、ボロな部分もあるあたりも見慣れている。


そして扉から真っ直ぐ通路が伸び、そこに受付のようなカウンターがあった。


(受付はおっさんかよ。)


そう思いながらもおっさんに尋ねる。


「冒険者としての仕事が欲しいんですが、何か紹介してもらえますか?」


チッ!と舌打ちをされると、手の平を見せてきた。


(何か出せってことか?)


だが心当たりがない。


「あの~これは?」


「金に決まってんだろ。こっちは慈善事業じゃねぇんだ。」


「ええ!?え~と・・・おいくらですか?」


「10ゴールドだ。」


「え!?ゴールド!?」


そういえばお金の単位が円じゃないあたりも鉄板だ。


来たばかりのタダヒトにそんな物を持ってるわけがない。


「え、えっと~お金持ってないんですけど・・・」


「あぁ!?てめぇ、なめてんのか!?」


ドンとカウンターを叩き怒鳴るおっさん。


「ひぃ!で、出直してきます!」


そう言いタダヒトは酒場から走り去ろうとしたが、何かにつまずいて転んでしまった。


「いててて。」


定番のセリフが聞こえる。


(まずい!急いで逃げないと!)


脳内で警告が鳴り響いている。


急いで立ち上がろうとしたが、抑えられてしまった。


「おい兄ちゃん。人にケガさせておいて謝罪もなしかよ。」


定番の展開だったのでこの先が嫌でもわかってしまった。


「す、すす、すみません。謝りますから逃がしてください!」


大男に抑えられ、体が動かない。


「あぁ!?謝るのに逃げるとか、お前、頭大丈夫か?」


タダヒトの情けない姿を見て、爆笑の嵐だった。


(ちくしょう、ちくしょう!俺は異世界でもこうなのかよ!)


あまりの不甲斐なさに涙が溢れる。


「ははは!この程度で泣き出すお子様が冒険者になろうなんてな!」


大男たちの笑いは嵐のようだったのに、さらに盛り上がった。




キイ!


ドアが開く音がしたと思うと、爆笑の嵐だった空気が一気に凍りついた。


「おやおや、騒がしいと思ったら、新しい冒険者ですか?」


ドアを開けた男はゆっくりと、且つ堂々と歩き、タダヒトへ近づいた。


「何があったのか教えていただけませんか?」


優しくもはっきりとした話し方だが、どこか逆らえない威圧感があった。


タダヒトはゆっくり顔を動かし、男を確認した。


(でかい!2m以上はあるか!?)


男は牧師の格好をしていたので聖職者と思われる。


「ろ、ロメオさん。実はそいつが金も無いのに冒険者の仕事が欲しいと言ってまして・・・」


受付のおっさんは恐る恐る説明しているように聞こえる。


このロメオと呼ばれた大男の牧師は、ここではそれだけ恐れられているのだろうか?


「それで・・・なぜ倒れていて、それを抑えているのですか?」


ロメオがタダヒトの方をチラリとみると、抑えていた男は急いでタダヒトから飛び退いた。


お陰で自由になれたが逃げ出せる雰囲気ではなかった。


「そいつがそこのに怪我を負わせて逃げようとしたんで取り押さえたんですよ。」


受付がそのそこのに目をやると、ロメオもそいつに目を移す。


「ひぃ!い、いや、大した怪我じゃないんですが、礼儀を大切にしないとという教えを守る為に・・・」


「そうですか。怪我をされたのに主の教えを守るために動くとは・・・あなた様に主のご加護を・・・」


ロメオは男に対して簡単な祈りを捧げる。


「では私がこの者を預かりましょう。あなた様の怪我に対する礼儀は、こちらのゴールドでよろしいでしょうか?」


ロメオは懐から金貨を取り出すと、男に渡した。


「ひ、ひぃ!あ、ありがとうございます。ロメオ様のお心遣いに感謝します。」


男は震えながらも頭を下げた。


ロメオは男への対応を終えると受付へ向かった。


「申し訳ありませんが、彼のために簡単な仕事を用意していただけませんか?」


「わ、わかりました。ちょうど薬草探しの仕事があるので、それでよろしいでしょうか?」


「はい、かまいません。」


そうやり取りすると、ロメオは手続きを済ませ用紙を懐へしまった。


「さあ、新しい冒険者よ。まずは私の元で準備をするといい。」


ロメオはタダヒトにそっと手を差し出す。


「は・・・はい。」


この男は何者だ?お助けキャラか?


聖職者だから権力があるのはわかるが、ここまで恐れられるのだろうか?


状況があまりわかっていないが、この人に助けられたのだろうか?


タダヒトの頭の中で自問自答が続いているが、差し出された手を取るとロメオの案内で屋敷に連れられた。




「だ、誰か助けてくれ!」


ロメオが去った後の酒場で男が騒いでいた。


男は助けを乞う。しかし誰もそれに応える者はいない。


「なああんた、ロメオさんと親しいんだろ?助けてくれよ!」


受付に助けを乞う。


「俺はあっち側の人間だ。そんなことしたらお前と道連れになるだろうが。」


「い・・・嫌だ!俺は死にたくねぇ!金ならここにある!」


そこそこの大金を積むが誰一人応えなかった。


「おい!ここにいるのか?」


突如、入り口に大柄な男数人が入ってくる。


「ひぃ!」


騒いでいた男は悲鳴をあげると、即座に裏口へ逃げた。


しかし裏口にも大柄な男が数人いた。


「ち、ちくしょう!」


そう叫びながら男はナイフを取り出した。


「死んでたまるかぁぁぁ!!」


雄叫びとも言える絶叫とともに勢いよくナイフを突き刺す。


しかしそのナイフは刺さることはない。


足に何かが引っかかり、男は宙を舞い転がる。


ガシャン!


転がった先は檻の中だった。


「いやだ!たず!?・・・・」


即座に閉められた檻を掴み助けを乞いだが、高圧電流により気絶する。


「おい、早く運べ!」


大男が小汚い男たちに指示を出すと、檻は何処かへ運ばれた。

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