異世界召喚失敗!?

猫フクロウ

フリーター ミナシ タダヒトの場合

夢にまで見た異世界召喚だ!

「うおおおお!異世界召喚されたぜ!!」


タダヒトは歓喜のあまり叫んでしまった。


さっきまで夜の住宅街を歩いていたのに、いきなり昼の草原に着いてしまった。


この展開は夢で見るほど気に入ってた物語、異世界召喚物のアニメや小説でよくある鉄板の展開だ。


実際に目の前で起きるとテンションは爆上がりだな。


「俺を呼んだ美少女ヒロインは何処だ?」


周りを確認したが人はいない。


「隠れてるのか?」


辺りを探しても人影は無かった。


「これは町でバッタリ出会うパターンだな。」


と言っても周りに町は・・・


「あそこだ!」


草原と言っても丘陵だったようで、眼下に大きな湖とその淵の一部に人工的な建物が並ぶ場所があった。


直線距離でおよそ2km少々。ゆっくり歩いても1時間も掛らずに到着できるだろう。


タダヒトは歩きながら体の変化を確認した。道中木を叩いたり、軽く跳ねてみたりしたが体に変化はない。


「ステータス。ファイヤー。サンダー。」


魔法や自分の能力が確認出来るわけではないようだ。


「う~ん、これから強くなるパターンか?」


自分が手に入れた特殊能力が解からない。


あれこれ試しているうちに、町へ到着した。


そこそこしっかりした囲い。田舎町風ではあるが、人で賑わっていた。


賑わってる方へ進むとアニメで見慣れた光景があった。


「おお、定番だな。どれどれ?」


露店には果物や雑貨が並んでいる。


が・・・・


「よ・・・読めない・・・」


日本語でもなければローマ字でもない形が書かれた値札と思われるものがあった。


しかもお金も無ければ相場もわからない。


だが品物はりんごやみかんといった見慣れたものばかりだったので安心した。


「こりゃどっかのじーちゃんばーちゃんから話を聞くしかないか。」


賑わいを少し離れ、話が聞けそうな人を探した。




「あの~すみませ~ん。」


声をかけたばーさんが振り向くと驚かれた。


「あや!?何だいその恰好、もしかして旅の人かい?」


「あ、はい。そうなんです。」


そういえば服装を確認しなかったが、ここの服装は中東のような恰好が多い。


そんな中で全身○ニクロとかかなり目立つだろう。


「どうしたんだい?」


定番のセリフなので無難なセリフで問題ないだろう。


「実は道が解からないまま彷徨ってたどり着いたのですが、ここは何と言う町ですか?」


「ここはラサッマと言うとこだよ。大変だったねぇ。何処から来たんだい?」


日本と言っても解からないだろうから定番の表現で言う。


「東の方の小さな島国です。」


「東の方の小さな島国?もしかして魔王の国を言ってるのかい?」


ほう、日本が魔王の国か。よくあるパターンだが悪くない。


「はいそうです!」


思わず大声で言ってしまった問題ない。


・・・・と思ってた。


「ばーか言ってんでねぇ。魔王の国は何十年も前に沈んでる。

おめぇさんのようなわけーもんが、そこから来るわけねぇべ。」


ん?何か思ってた展開と違うような・・・


「え?えーと、魔王は・・・?」


「んなもんとっくに倒されとる。んなん常識だべ。」


「え・・・・ええ~!?」


「何おどろいとる?おめえさん大丈夫か?」


魔王は倒され、魔王の国は沈んでる。つまり今から魔王討伐は不可能だ。


つまり俺が呼ばれた理由はこれではないのだ。


「よ・・・予定と違う・・・」


これからチート級の能力を手に入れ魔王を倒し、世界の英雄として充実した人生になると思ったのに。


「は・・・・!?じゃあ美少女ヒロインは!?金銀財宝は!?」


「はあ?ヒロインはわからねぇが、金がねぇなら働くしかねぇべ。」


働くで一つ思い出した。


「そうだ!ここにギルドは!?冒険者が仕事を受ける場所は!?」


「ぼ・・・冒険者!?おめぇそんな夢のような仕事やりに来たのか!?」


どうやら冒険者と言う職業はあるようだが、夢のようなって・・・


「やめとけやめとけ、んなんいつ食いっぱぐれるかもしれねぇんだぞ。地道に働くのが一番だ。」


「地道に働きたくてここに来たんじゃねぇぇぇ!」


「はぁ、最近のわけーのは何考えてっかわからねぇが、冒険者になりてぇってんなら、

そこの角を右に曲がったとこに冒険者の酒場がある。そこへ行け。」


「そこの角を右だな。わかった!」


タダヒトは大急ぎで酒場へ向かおうとする。


「待でって。」


ばーさんに腕を引っ張られ止まる。


「悪いことは言わねぇ。やめとけ、親から貰った命を大切にしろ。」


真剣な眼差しで言う言葉に少し恐怖を感じてしまったが負けてられねぇ。


「俺は英雄になる為にここへ来たんだ。そんなのでやめられるかよ。」


タダヒトはそう言うと、腕を振り払いズカズカと去って行った。




「はぁ、これで何人目だぁ?」


ここラサッマは確かに冒険者の登竜門と言われていた。


だがそれは数十年前までの話である。


魔王が倒され、英雄と言う象徴が必要無くなった後は、ただの夢追いの集団になってしまった。


ある者は居もしない第二の魔王を探して。ある者は有りもしない財宝を探して。


夢いっぱいに胸を膨らまし、意気揚々と旅立って行ったが、誰一人として行方知れずになった。


やがて一部の冒険者は諦め、小さな仕事をコツコツ引き受け生計をたて、真面目に生きる者も現れたが、

それが出来ない者は野盗になったり、悪どい仕事に手を出したりとかつての輝きは失われていた。


それでも英雄と言う中毒は多くの人を魅了させ、なりたいと言う者が後を絶たないのが現実だ。


「魔王なんて居たら居たで迷惑で、倒されても迷惑とか・・・はぁ、どうしてこうなったんだろうなぁ。」


数多の冒険者希望の若者を見たお婆さんには悲しくも抗えない現実だった。

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