第7話 ~女子が分からない~
年が明けて1月。
部活を終えて、自転車置き場につくと
「ナツ、一緒に帰ろうぜ。」と声をかけてきた。
「おー。なんだよ。待ってたのかよ?」自転車の籠にバッグを置きながら聞くと、
「まぁな。」と返ってきた。
なんだ?こいつ、いつもすぐ帰るのに。ちょっと不思議に思ったけど、気にしなかった。学校を出てから10分ほど、部活の話をしながら帰った。
暗くなってはいたけど、稲を刈り取られた後の田んぼの間を通る農道は、見通しもよく、なにより車がほとんど通らないので、俺達は、ずっと横に並んで自転車をこいでいた。
大樹の家と俺の家に行く道が分かれる丁字路に着いた。
俺は「じゃーなー!」と言って、手を挙げたけど、大樹が俺の家の方に曲がって来た。
挙げた手を半端に下した状態で、「え?なんでこっちに来た?」と大樹に問いかけた。
「あー。ちょっとナツに相談。」
大樹はそう言ったまま、「なんだよ?」と聞いても、何も言わずに少し後ろをついてきた。
俺は家の前で自転車を降りて、自転車に乗ったままの大樹に向き合う。
ここまで何も言わなかった大樹が口を開いた。
「あー。
あ。その話か。俺はなぜ大樹が黙ったまま付いて来たのか分かった気がした。だけど、今まであまり寛子とのことを話さなかった大樹が、寛子の事を言い出すなんて珍しいな。とも思った。
「あのさ、寛子がなんか怒ってて、口をきいてくれないんだ。」
「なんで?」
俺は、好奇心半分、面白がる気持ち半分で聞いた。
「それが、分からないんだよ。」大樹が答える。
「お前、エッチなことしようとしたんじゃない?」茶化し気味に、興味本位で言ってみた。
「あほ!なんもしてねぇよ!」
「ホントかぁ?」
「ホントに何にもしてない。」少し顔を赤くして大樹が答える。
「じゃ、なんだろうな? 謝ればいいんじゃないの?」適当というわけでもないけど、とりあえず考えられる答えを返した。
「いや、何で怒っているのか分からないのに謝れないだろ。」
「そりゃそうだ。・・・そか。本当に何で怒ってるのかわからないのか。」つぶやくように言った。
「いつから?」と聞く俺に、大樹が話し始めた。
「昨日から。昨日、二人で出かけたんだ。」
「ほう。デートですね。」茶化す俺。
「そんなんじゃない。ただ買い物に行っただけだ。」
「それをデートっていうんじゃないの?」
「違うだろ。とにかく、寛子と一緒に街に行ってペンとか買って、その後、釣具屋に行ったんだ。」
大樹は魚釣りが好きだ。元々は大樹の父親の趣味で、時々海に釣りに行った話をしている。俺も連れて行ってもらったことがあった。
「ルアー見てたんだけどさ。そしたら、なんか急に機嫌が悪くなってよ。」
「先に帰る。とか言い出して、追いかけたんだけど。」
真剣な表情の大樹を見て、面白がる気持ちは消えた。
同時に、こいつ、なんで片思い中で、彼女なんかできたこともない俺の所に相談に来たんだ?と言う疑問が浮かんだ。
大樹があまりに真剣だったから、面倒くさくなったのかもしれない。だけど、俺を頼ってきた。と嬉しくもあった。
しかし、正直言って、寛子が怒った理由は全然分からなかった。
女子が怒る理由。
ふと今まで読んだマンガや小説が思い浮かんだ俺は、大樹に聞いた。
「寛子の髪型とか変わってなかったか?」
「いや、変わってなかったと思うけど。お前も今日見たろ。」
まぁそうだよな。
マンガなんかでも、髪型とかアクセサリ、化粧なんかの変化に気付かない事に怒るのは、会った時の話だ。そして大体の場合、すぐ種明かしして機嫌が直るというパターンが多い。
今回の場合、大樹の話だと寛子が怒ったのはデートの後半のようだ。化粧とかしないだろうし。
「ナツ。なんかわからない?どうしたらいい?」真顔で聞いてくる大樹。
「いや、それだけじゃわかんないな。もっと詳しく話してみ。」
「詳しくって言っても、それだけだよ。」
「お前さ、他の女の子見て、“あの子可愛い。”とか言って・・・ないよな。」
大樹がそんなこと言うとは思えなかったけど、やきもちの線も聞いてみた。
「いや。そんなこと言わねぇよ。」
まぁそうだろうな。これは困った。
「やっぱりさ。とりあえず、ごめんな。とか言うしかないな。」
「そうかなー。でも、理由が分からないことにはなー。」
「だから、その理由が分からないことも含めて、謝っちゃえば?よく分からんけど、ごめんなさい!みたいな。」
「それで許してくれると思うか?」
「わからんけど。やらないよりはいいんじゃないかな?」
女の兄弟とかいれば、相談できるかもしれないが、俺には兄貴しかいない、その兄貴は今は遠い所で働いている。その上、兄弟仲は最悪だ。そして大樹は一人っ子だ。
「あ。そうだ。
身近な女性と言えば、母親しかいない俺はひらめいた。
「ばっか!お前、そんなこと母ちゃんに聞けるわけないだろ。」
まぁ、そりゃそうだ。
俺と違って、大樹の所は親子の仲がいいと思ったけど、さすがにこんな話は出来ないか。
「付き合ってるとか、寛子とか伏せてさ。」
「いや、無理だろ。」大樹が答える。
他にも色々話したけど、なにも答えは出ないまま、30分は過ぎた頃、
「おおっ!寒くなってきた。俺、帰るな。ありがとよ。」
大樹は、手をこすりながら言うと、自転車でUターンした。
帰って行く大樹の後ろ姿を見つめながら、あいつはあいつで真剣なんだな。と思った。
翌朝、席についてバッグから教科書を出していると、大樹が来た。俺の席の横に立ったまま、「ナツ、昨日ありがとな。解決した。」
それだけ言って、俺の肩を叩いた。は?なんで?解決したの?どうやって?そんな思いがよぎったけど、それが口から出る前に、大樹は踵を返して俺から離れて行った。
放課後、ダッシュで教室を出た俺は、部活に行く前の大樹を捕まえた。
「よう!大樹。」
「ナツか。なんだよ?」と席に座ったまま笑顔で返す大樹。
「解決の話を聞こうと思ってな。」
「ああ。アレか。ちょっと待ってろ。」
顔をあげてちらっと周りを見渡した後、バックに教科書を詰めながら言う大樹。
教室内にはまだ他の生徒が大勢残っていた。
俺も周りを見て、「じゃ、俺も荷物取ってくるわ。」
と言って自分の教室に戻り、ゆっくり準備して自分の教室からほとんど人がいなくなってから大樹の所に行った。
教室には大樹だけが残っていた。
隣の席に座ると、「で?」と言って、大樹に話をするように促した。
「俺の
「あぁ、あの海釣りに行った時に一緒にいた髪の長いお姉さんな。」
大樹の父親に、海釣りに連れて行ったもらった時の事を思い出して言った。
確か、2~3歳年上で高校生だ。
「昨夜、その麻紀ちゃんに電話したんだ。」
「え?麻紀ちゃんは、寛子のこと知ってるの?」
「うん。名前と付き合っているという事は知っている。」
「へー。それで?」
先を促すと、大樹が話し始めた。
麻紀ちゃんが言うには、寛子が怒ったのは大樹がルアーを見ていたからだという。
大樹は、釣り具を見始めると長い。
麻紀ちゃんも、大樹と一緒に釣り具を見に行った時に、いい加減にしろ!と思ったことがあったそうだ。
彼女ともなれば、自分が無視されていると思って怒るのも当然だ。という話だったそうだ。
いや、ルアーを見ていただけで、無視はしてないだろ。と微妙に納得できなかったけど、その後、麻紀ちゃんのアドバイス通りに、電話で謝って寛子の機嫌が直ったという話だった。
そして、寛子と一緒の時は釣具屋には行かない。と約束させられたらしい。
最後に、「ナツが
俺にとっても、麻紀ちゃんの話は納得できるとは言い難かった。
男同士の場合だと、自分の用事や買い物が終わってしまって、一緒に行ったやつが悩んでいた場合、退屈することはあっても、存在を無視されているとは思わないし、普通に話しかける。あるいは自分が他に見たいものがあれば、”じゃ俺、○○見てくるから。”とか、”〇分後に戻ってくる。”とか言って一回離れる。女子はそれが出来ないのか?デートだと二人が別行動をとること許されないのか?女子はすぐ群れるからそういう考えになるのか?
そういえば、
確か『かまってくれない。』的な何かで、主人公の女の子が怒るんだけど、気付いた男性が笑って頭をポンポンとかすると、なんとなく機嫌が直るパターン。
ああいうのってさ、男の方が妙に大人だったり余裕があったりするんだよな。それに怒るって言っても絵が可愛いから怒るって感じでもないし、なにより主人公の気持ちも、男性の気持ちも書かれていて、読む方には謎は何もないわけだ。
だとしたら、現実世界の中学生の同級生同士の恋愛に、少女漫画は全然参考にならないよな。まあ、色々こんなのが女子の理想。ってのが描かれているんだろうけど、現実世界の女子が考えることなんて全然わからない。
それに漫画は漫画で、寛子は寛子。女子全員がそうだとも限らない。正直に言えば俺には関係ない話。寛子とかどうでもいいし。
そこまで考えた時にふと、女の子は女子になっているけど、男の子は男子になってないのかな。子供なのかな。そんな言葉が思い浮かんだ。
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