帰ってきたまめたんっ!
マイラルド連王国。
七つの小国家が本来の同盟関係を発展させる形で統合した寡頭制国家。
連王国の領土は気候に恵まれず、痩せた土地では魔物に対抗する術を発展させることが難しかった。故に、魔法や剣術の素養の無い者でも戦うことができる、魔力に頼らない科学技術の開発が進んだ。
技術偏重の政策はやがて信仰の放棄と優れた技術への盲信へと変化していった。近年では神への批判を公言し、ハイランス聖教との衝突が相次いでいる――――。
「おおおおおッ!」
「ハーハッハッハ!」
二つの閃刃が要塞地下のホールで無数の火花を散らした。
勇者レオスと狂王ロエンドール。人知を越えた領域に至った二人の剣士が、その雌雄を決するべく己の力をぶつけ合う。
「素晴らしい! さすが勇者などと呼ばれるだけのことはある! 余とこれほど打ち合えた人間は貴様が初めてだッ!」
「血に飢えた狂王よ! 貴殿の後ろ暗い噂は俺も聞き及んでいた。だが民のために自ら魔を屠る貴殿が、人道を外したなどとは信じたくなかった!」
「人道などッ! 民も魔も、神も勇者も――――全ては余を楽しませるために刃を取り、ただ余の命を奪おうと挑みかかってくればそれで良いのだッ! レオスよ、もっと余を憎め! 余にヘイトを向けろ! 貴様の屍の上はさぞかし極上の心地であろうなぁッ!?」
瞬間、ロエンドールのあまりにも重い横殴りの刃がレオスの腹部に襲いかかる。レオスはすんでの所でその一撃を受け止めるが、その威力はレオスの強靱な肉体を持ってしても受け止めきれず、大きく態勢を崩す。
「シィィィィアッ!」
その隙を逃す狂王ではない。ロエンドールはよろめくレオスに暴風のような剣刃を全方位から繰り出し、勇者を屠り去ろうと襲いかかった。だが――。
「そうはさせません。陛下がいかに強かろうと、私どもは四人で一つ。レオスと戦おうというのなら、ここにいる全員を相手にすることを覚悟して頂きます!」
レオスに迫ったロエンドールを、渦巻く暴風が横殴りに振り払った。渦に飲み込まれたロエンドールはきりもみに振り回された後、無防備に空中へと放り出される。
「てめぇと戦えるのはレオスだけじゃねぇぜ?」
中空で身動きが取れないロエンドールの肉体が、一瞬にして無数の傷を負った。
それはあまりの速さに残像すら残して空を駆ける盗賊王ヤグラ。
「なるほど、ロエンドール王の力量は予想を超えてきましたか。ルーントレス、バフは私が受け持ちます。あなたは攻撃と治癒に専念して下さい――――迅速の風、防壁の大地、溶融の炎――――光の結界を今ここに」
そして後方でルーントレスと共に詠唱を行っていたデュオキスが、その両手を掲げて魔力を解放する。その力は人間の持つあらゆる能力を上昇させ、傷を防ぎ、レオスとヤグラの持つ剣に灼熱の炎を灯した。
「狂王ロエンドール! 確かに貴殿は強者だ。貴殿の力は俺を上回るかもしれん。だが、たとえ貴殿が俺よりも強かろうと、俺達の力には遠く及ばない! 抵抗を止め、法皇の裁きを受けよ!」
全身を切り裂かれ、無様に地面へと叩きつけられるロエンドール。
そしてその前に立ち塞がる勇者レオス。
ロエンドールの力は確かにレオスとも拮抗する程だった。
長期戦ともなれば、ともすればレオスを上回ることすらあったかもしれない。
しかしレオスは元から一対一の勝負になど興味は無い。
常に力を合わせ、互いの役割を理解し、長所を伸ばし、短所を補う。
レオス達勇者パーティーは、常にそうやって戦ってきた。
そうやって数々の死地を潜り抜けてきた。
たとえ戦う相手が魔物ではなく人間の王だったとしても、彼らのやり方は少しも変わることはない。その結束と連携の力こそが、彼らが勇者と呼ばれる真の理由だった。
「ク……クックック! カハハハハハ!」
「何がおかしい?」
だが、ロエンドールは絶望的な状況にあってなお高笑いを上げた。
それは強がりや虚勢では無い。
心の底からの喜び、歓喜と狂気の絶叫だった。
「素晴らしい、素晴らしいぞレオス! そして勇者一行よ! 余はこのような戦いをこそ求めていた。このような戦いを、永遠に続けることをなァ!」
「なに!?」
その叫びと同時、ロエンドールの傷ついた体に大量の魔力が流れ込んでいく。
魔力の発生源はホール中央に拘束されたピコリー。
無限に抽出される魔王の力が、ロエンドールの肉体を即座に治療する。
「ああ! やはりあの少女の正体は魔王でしたか! 皆さん、ロエンドールの肉体に魔王の再生が加わっては私たちの勝機はありません! まずはあの装置を破壊し、魔王の力を止めるのが先決ですよぉ!」
「ひ、ひっひっひ! そうはさせませんよ勇者様方。王を守ることこそ我らが臣下の努め。陛下が存分に楽しめるよう、我らの作りし銀の兵士がお相手いたしましょう……」
「なんだぁ? こいつらは!?」
さらに広大なホールの天板が一部開放され、そこから銀色の輝く金属製の人形のようなものが続々と落下してくる。それらは一糸乱れぬ動きで勇者パーティーを包囲すると、じりじりとその眼孔を赤く光らせ、距離を詰めていく。
「わかりますかルーントレス。この者達……魔の気配が一切しません」
「ですねぇ……これはもしかするとかーなーりヤバイですよぉ……レオスは王様の相手で一杯一杯ですし、このお人形さん方には私とデュオキスの魔力は効かなそうです。つまり――――ありがとうございますヤグラさん! あなたの最後の勇姿は忘れませんよっ!」
「ヤグラ……無茶しましたね……」
「まだ死んでねぇ! ってか俺がこのガラクタ共を全部やれってかぁ!? 冗談きついぜ!?」
包囲され、互いの背を庇い合いながらじりじりと下がるルーントレス達。
レオスも即座に助けに向かいたいところだったが、彼の前には既に完全な肉体を取り戻したロエンドールが立ち塞がっていた。
「仲間が気になるか? 安心しろ、奴らは知らんが貴様は俺が直々に血祭りに上げてやる。腕を断ち、全身をバラバラにして死にかけたら、俺が貴様を魔王の力で治してやる。そしてまた戦うのだ……余と永遠に血の享楽を楽しもうではないかッ! カハハハハハ!」」
「魔王の力すら欲望のため利用するとは――もはや冥府外道に落ちたか!」
再び聖剣を構えるレオス。仲間とは分断され、自身と互角の力を持つ狂王はあろうことか魔王の持つ無限再生を備える。
魔王の再生力を上回る、無限の破壊を行使することができるレオスだったが、こうも力の拮抗した相手にそれを叩き込むことは至難の業だった。
「さあ! やるぞレオス! カハハハハハ!」
「チッ!」
迫る狂王の刃。
レオスは舌打ちし、この最大の窮地を切り抜けるために思考を巡らせる。
このままでは確実に全滅する。たとえこの場で決着をつけることが出来ずとも、まずは生き延びてこの場を逃れることが先決――――。
――――だが、レオスがそう結論づけたのと同時。
死闘が繰り広げられる地下のホールに、凜とした少年の声が響きわたった。
「アルルン・ツインシールドの名において告げる! 我ら決して許されること無し――――この身尽き果てるまで、汝らの恨み消えること無し!
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