第二章 ようこそ魔王軍へ!
助けられたまめたんっ!
「こんな僕を仲間に加えて下さって、本当にありがとうございますっ! 僕、立派なタンクとして絶対に皆さんを守って見せますからっ」
「ははは、それは頼もしいな。期待しているぞ、アルルン!」
――――それは、アルルンが過ごしたレオス達との日々の記憶。
旅立ったばかりで右も左もわからない十二歳のアルルンを見出したのは、偶然出会った勇者レオスのパーティーだった。
それまでの道程で誰にもタンクとして相手にされていなかったアルルンは、心の底から喜んだ。レオス一行のために、自分に出来ることはなんでもしようと心に決めた。そう――――なんでも。
人として極限の強さに達しつつあったレオス達勇者パーティーの面々ではあったが、それでも全ての魔物を無傷で切り抜けることは難しい。
戦いに生傷はつきものだ。だがアルルンが加入してからの勇者パーティーは、アルルンが約束したように確かに誰も傷つかなくなった――――ただ一人、アルルンを除いて。
「大丈夫か、アルルン……」
「はいっ! こんな怪我、全然へーきですっ!」
アルルンは、レオス達勇者パーティーに同行している間、何度となく怪我をした。
浅い怪我も、深い怪我も、時には致命傷となるような傷を受けることもあった。
「アルルン……もう二度と無茶なことはしないと約束しただろう?」
「ごめんなさい……つい体が勝手に動いて……でも、僕はタンクですから。皆さんが無事ならそれでっ!」
アルルンは、レオスとの旅で何度となくその無茶を注意された。
勇者レオスも、その相棒である賢者ルーントレスも、仲間達全員がアルルンの身を案じ、あの手この手でアルルンに自分をもっと大切にするように教えたつもりだった。だが――――。
「
「――――っ!? 駄目だ、アルルンっ!」
勇者レオスとその仲間達は強い。だが強い故に、戦う魔物もまた強敵ばかりだ。他の戦士や冒険者が太刀打ち出来ないような災厄に挑まなくてはならない。
その日、恐るべき魔物と拮抗した戦いを繰り広げていたレオス達は、アルルンが
だがアルルンは、その戦いで一ヶ月以上もの間生死の境を彷徨う重傷を負った――――。
普段はより強力な魔物がいる危険地帯へと向かうレオス達が、平和な大陸北西部にお向かうと言いだしたのは、アルルンの回復を待ってのこと。
アルルンがレオスに追放を言い渡される、一週間ほど前のことだった――――。
● ● ●
「レオスさん――――っ!」
「うひゃあ!」
アルルンは、去って行くレオスの背中に手を伸ばしたはずだった。
しかしその先にレオスの大きな背中はなく、アルルンはすぐ傍に居た見知らぬ少女の腕を必死に掴んでいた。
「え……っ? あ、ごめんなさいっ!」
「は、はわわ……っ」
「はわわ?」
慌てて少女を掴んでいた手を引っ込めて謝罪するアルルン。見覚えのない部屋の中、どうやらアルルンは古ぼけた寝台の上に寝かされていたようだった。
そしてアルルンに腕を掴まれていた少女はと言えばその顔を真っ赤に染め、なぜかその薄桃色の唇を震わせて声にならぬ声を発している。
――――エメラルドグリーンの鮮やかな長い髪と同色の瞳。白いブラウスに黒いスカート、そして見慣れない素材の茶色のケープを纏った、一目で美しいと断言できるほどの整った容姿を持った少女だった。だが――――。
「はわーーーーっ!」
「えっ!?」
次の瞬間、少女は正しく脱兎のような勢いでアルルンに背を向け、部屋の扉を閉めることもせずに走り去ってしまった。
呆然とするアルルン。しかし少女と入れ替わるように部屋に入ってきた人影に、今度はアルルンが驚く番だった。
「ふむ……体の方はもう大丈夫か?」
「あなたは……! この前の……フェア様……?」
「ククッ……その様子なら、頭の方も問題なさそうではないか」
逃げ去った少女と入れ替わりでアルルンの前に現れたのは、路地裏でアルルンが助けようとしたローブの女性――――フェアだった。
街中では深々とフードをかぶり、その容姿を隠していたフェアだったが、今はそうではない。
光の当たる角度によって七色に変化する白銀の髪。この世の物とは思えない程に透き通った白い肌。そして鮮血のように輝く赤い瞳と唇。
絶世の美貌と言って差し支えない容貌ではあるものの、そのあまりにも完成されたフェアの美しさは、アルルンの背筋にある種の恐れを感じさせるほどだった。
「……随分と無茶をするではないか。私がせっかく逃げるように忠告してやったというのに、それを無視するどころか、自ら命を捨てに行くとはな」
「あ、あの……もしかして、フェア様が僕を助けてくれたんですか?」
「そうだ。私と、先ほど逃げていったもう一人とでな」
「そうだったんですね……僕を助けてくれて、ありがとうございましたっ」
フェアのその言葉に、寝台から半身を起こして深々と頭を下げるアルルン。しかしそんなアルルンの様子に、フェアはその深紅の瞳を冷たく向ける。
「――――なぜあんなことをした? 今回は私が見ていたからいいものの、そうでなければ貴様は確実に死んでいたぞ」
フェアのその言葉は淡々としていたが、明らかに呆れたような、責めるような色を含んでいた。しかしアルルンはそんなフェアに対してもまっすぐに顔を上げ、胸を張って答えた。
「それは……僕がタンクで、僕の
「ハッ! 何がタンクなものか。貴様がやったのは自己満足の英雄ごっこに過ぎん。貴様が引き寄せた魔軍だがな。貴様が居なくなった後、一体どこへ向かったと思う?」
「えっ!?」
必死に絞り出したアルルンの言葉。しかしフェアはそんなアルルンの言葉を嘲笑するかのように鼻を鳴らし、アルルンに無慈悲な現実を突きつけるのであった――――。
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