弟子になるまめたんっ!
「貴様が消えてすぐに正気に戻った魔物共は、逃げようとしていた街の民共に容赦なく襲いかかり、皆殺しにして悠々と立ち去った――――」
「そ……そんな……っ!?」
「――――というのは冗談だ。安心しろ、私が一匹残らず消し炭にしてやったわ! クハハハハハッ!」
フェアの発した言葉に、心臓を鷲づかみにされたような表情で青ざめるアルルン。
しかしフェアはすぐに片眉を上げて悪戯っぽく笑うと、アルルンが横になる寝台に優雅な所作で自身も腰掛けた。
「ええっ!? そうだったんですか!? よ、良かったぁ……本当にそうなっていたら、僕……っ」
「だがな。それも私があの場にいたからそうなっただけのこと。貴様の死も、街の陥落も、どちらも私が居なければ現実になっていたことだ。貴様の行為は、何一つ良い結果を導かなかった――――それはわかるか?」
「う……っ」
フェアは言いながら、鋭い眼光を隣のアルルンへと向ける。
フェアの言葉は全てその通りだった。アルルンが魔軍を街から引きつけていた時間は僅かに過ぎない。街の人々の避難が完了し、安全な場所まで逃げおおせるほどの時間など到底稼げるはずもなかった。
アルルンが今こうして生きているのも、街が魔物の脅威から救われたのも、全てはフェアの力だった。
「自分を囮に魔物を引き寄せてな、その後はどうするつもりだったのだ? どうせ何も考えず、街から引き離して自分が犠牲にでもなれば後はどうにかなるとでも思ったのであろう」
「そ、それは……っ」
フェアによって次々と指摘されるアルルン自身の甘さ、そして身勝手さ。
ここに至り、アルルンもようやく気づき始める。
アルルンはレオス達と共に過ごしている間、タンクとしてレオス達を守っているつもりだったが、守られていたのは完全にアルルンの側だったのだ。
しかしレオス達は優しく、強いが故に、アルルンの身勝手さや無茶の尻ぬぐいが出来てしまっていた。
そしてそれこそが、アルルンに自身の本質的な誤りを気付かせる妨げになってしまっていたのだ。
「う……うぅ……っ……僕はっ……みんなの役に立ちたくて……立派なタンクに……っ」
「ようやくわかってきたようだな。貴様がいかに今までその力に頼り、むやみやたらと振りかざしてきたのかを」
役に立つどころか、自分の行いがレオス達に大きな負担をかけていたという事実と、自らの未熟さ、弱さを突きつけられ、ついに堪えきれずに大粒の涙を流すアルルン。
寝台のシーツを握り締め、嗚咽をもらすアルルンの頬から、いくつも涙がこぼれ落ちた。
「貴様はまだ幼い――――とても未熟で、判断も甘く、後先を考えることもできない。しかし貴様の最たる不幸は、そんな貴様に神すらひれ伏すような力がすでに備わっていることだ」
そしてそんなアルルンに、フェアは哀れむような声を向ける。
「全く大層な力だよそれは。
「ううっ……うぅ~~――……っ」
フェアは震えながら涙を流し続けるアルルンの青い瞳を射貫くように見据え、その美しい眉を歪めた。それはアルルンに対して向けられたものではなかったが、どこか怒りすら感じさせるような表情だった。
「お願いします……っ。教えて下さいフェア様……っ! 僕は……僕はどうしたら良かったんですか……っ!? 僕、それでもやっぱりみんなのために……っ! 立派なタンクになりたいんです……っ!」
すぐ目の前で見定めるように自身を見つめるフェアに、アルルンは涙を流しながら尋ねる。
アルルンはそれでも諦めていなかった。今までが間違っていたのなら、少しでも正しい方法でレオスや街の人々にお返しがしたかった。
そのためであれば、今から自分に出来ることはなんでもする。それだけの覚悟を持って、アルルンはフェアに縋るように尋ねていた。
「そうかそうか……そんなに教えて欲しいか、この私にっ!」
「はい……っ! お願いします、今の僕に出来ることを……やるべきことを教えて下さいっ!」
アルルンの発したその言葉に、フェアは待ってましたとばかりにその赤い目を大きく見開いて輝かせ、妖艶に笑った。
「クハハハハ! よかろうッ! ならば貴様は今この時より我が弟子だ! この災厄の魔女フェアの忠実な弟子として、大いに学び、育つが良いぞ! フッハハハハハ!」
「ありがとうございますっ! ――――って、災厄の……魔女? 災厄の魔女、フェア……ま、まさか……それって、魔王に仕える、破滅の……っ!?」
「ようやく私の正体に気付いたようだがもう遅いわッ! 貴様との契約は既になされた! 貴様はもはや、この私の手の内よ! フゥーーーーハハハハハハッ!」
瞬間、狂気じみた笑い声を上げるフェアの周囲の空間が眩く輝き、辺りの空間がガタガタと震える。
その揺れの震源地は目の前に立つフェア――――あらゆる災厄の根源と呼ばれ恐れられる、伝説の魔女フェアから発せられていた。
「え、ええええええええ――――!?」
激しい魔力の奔流に揺さぶられる室内と、あまりの出来事に目を丸くして驚く小さなアルルン。
そしてこの時こそ、立派なタンクを目指す少年アルルンの、受難の日々の始まりであった――――。
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