第14話 ――Heirat――

はこうして話している間もずっと深く深く海の中に沈んでいってるの」


 今まで聞いたことの中で、これが一番突拍子のない言葉な気がする。


「私も詳しい説明はできないけど、酸欠にならないように何とか持ちこたえても、やがて空気か水かどっちか知らないけど、とても強い圧力がかかって、ここと一緒にぺしゃんこになるの」

 なるほど、確かに詳しい説明は出来ないけど理解は出来る話だ。納得も出来ないけどな。貴族の狂った遊びかと思うほどに悪趣味な処理方法じゃないか。

「だから監視カメラも無いのか」

「うん。それに扉もね。あそこは単なる蓋で、内側から開けるのを想定していないもの」

 絶体絶命。いや、殺傷を目的としているから当然か。


「ふみや、泣いてるの……?」

「え」

 腹は立っていたが別に泣いてなんか………あれ、泣いてる。

「レイナちゃんは死んじゃだめだ」

 これも僕の本心だ。でも、今言うべきなのはこんなおまじないなんかじゃないはず。

 視界が歪んでいく。既に若干ではあるが酸欠なのか?僕だけ?

「僕が死ねばその分、長い間レイナちゃんは生きる事ができるよね」

 なんだそれ。確かにこれは一つの案かもしれないが、こんな案をレイナちゃんが受け入れるはずがないだろ。僕はさっきから何を口走ってるんだ。


「そっか、ふみやももう、ダメなんだね」

「だ、駄目………?」

「聞いたでしょ、私の翼と光を至近距離で観測し続けた人間は自由意志を失うって。今のふみやは私を守ることだけを生存欲求にしてしまってるんだと思うの。だからそんな事を言うんだよ。ばかふみや」

 そう言えば聞き覚えが。でも、そんなのってないよ。それじゃあまるで、偽善よりも悪いみたいじゃないか。

「ふざけんな!レイナちゃんはまだ生きれるだろ!」

「叫ばないで…………もう終わったんだよ、何もかも」

 確かに叫ぶのは得策ではない。酸素を多く必要としてしまう行為、例えば無理やり壁を叩きつぶそうとするとかは厳禁だ。

 今は一秒でも多くレイナちゃんを生かして、まっとうな日々を送ってもらうしか。


「終わってない。レイナちゃんの人生も、夏休みも」

 レイナちゃんの預言は『夏休みの最後まで生きられない』だ。でもまだ一週間くらいある。だったらまだ大丈夫に決まってる。羽根を持ってる銀髪少女が言う事に間違いはあるはずないからな。

「レイナちゃん、最後に一度、全力で臨界状態を起こすんだ。その怪我から見てもとても辛いことだろうけど、でも、君が生き残るには翼を捨てなくちゃならない。そうじゃなきゃ、死んでも君は死にきれない。これは言葉通りの意味だよ」

「全力で翼を出したりしたらここは」


 ここは必ず爆発するだろう。彼女の持つエネルギーを圧縮しているようなものだ。内側の急激な高温化と、海水によって冷やされた外面との温度差で巨大な爆弾と化すだろう。

 その瞬間、爆発と水流とによって一気に上空へと羽ばたけば、きっとレイナちゃんは生き残ることができるはずなんだ。


「お願いだよ、レイナちゃんは死なないで」

 以前、レイナちゃんが指摘したこと。なぜ必死になって私を探したのか。

 あの時は確かに良くも悪くも一時の気の迷いのような曖昧な行動だったけれど、今は絶対に生き抜いてほしいという望みがある。


「僕はレイナちゃんが好きなんだ」

 この言葉は誰に何と言われようと、僕の意志だと断言できた。その気付きこそ、レイナちゃんに貰ったかけがえのないモノに他ならないんだ。


「やだよ、できないよ!だって、だって私も………」


 ギシギシギシギ


 もう子供みたいに泣き叫んだりしない。冷静ぶりもしない。

 後悔させるような死に顔をみせない為に。

 一人の普通の女の子として世に羽ばたけるように。

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