第13話 早きに生まれた暁は沈む

 凄まじき大地の揺れで目が覚めた。

 地震かと冷や汗を流したが、すぐさま落ち着きを取り戻した。僕は今、レイナちゃんの膝を枕に、翼を布団にしていただけだった。

 しかし、夢以前の記憶が僕の意識に流れ出した時、王侯貴族のような状態にあっても、再び緊張を感じずにはいられなかった。


「アイツらは!?」

 僕らは逃亡の意味もなく、電話を傍受されてすぐさま身柄を拘束された。

 そして次のシーンでは、以前とは違う部屋に二人一緒に閉じ込められていた。

 対するレイナちゃんの方は、幼さの影すら感じさせない同情のような、憐れみのような瞳を僕に落としていた。

 けれども僕は今年で成人というのにそれほど大人びてはいない。彼女の持つ境遇と心境とを一身に察し受け入れる度胸と度量はまだ有していない。


「もう、終わったんだよ。何もかも。ごめんねふみや、やっぱり夏休みの最後まで生きることはできなくなっちゃった」

「どういう………」

 取っ手のない扉。何もこれといって物がないのに、四畳半のアパート以上に狭く感じるステンレス?のようなもので覆われた奇妙な部屋。

 

 不安は更に深みを増す。

「もうすぐ私たちは死ぬの」

 最悪のシナリオがようやく掴めてきた。毒ガスや解剖といった人体実験的処刑の色々を。

「その怪我、アイツらが?」

「うん。でももうすぐ死んじゃうんだよ、たとえ無傷でも骨が折れてても一緒だよ」

 右手から血が流れ、右翼は少し焦げている。これでは長時間の飛翔はしばらく不可能だろう。臨界状態を強制的に鎮める為に乱暴に何発もスタンガンを撃ったに違いない。


「キャッ!」「うわっ!?」

 再び部屋が大きく揺れる共に少し壁が軋んでいる。一体何が起きてんだよ。それに段々と息苦しくなってきている気が。


「………ここがどこか、もしかしてレイナちゃんは知っているんじゃ?」

「知らない方がいいことだってあるよ、この世にはいっぱいね」

 その通りだ。僕が古今東西の事例で一番、当てはまるだろうさ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 ついにレイナちゃんは少女のように泣き出してしまった。これまでになく、これからもないほどに。小さな拳を涙で濡れた瞳を殴るようにふき取る。

「ごめんなさいごめんなさい」

 彼女は何も悪くない、少し不運だっただけだ。それも僕という存在が現れたせいで。

 そんな彼女が決壊する様を見るのは辛かった。何よりも辛かった。

「これから僕らがどうなるのか、教えてくれる………?」

 レイナちゃんは僕と違って情けない存在なんかじゃない。

 ただ批判したり、カッコづけている僕と違って、レイナちゃんは自分の翼を受け入れ、大空を飛んで見せた。

 彼女は柊レイナとして生まれたんじゃない、柊レイナになったのだ。


「………う、うん、ごめん。私たちはあの人達研究員に捕まった。そこまでは理解できてるはず。問題はそれから」

「死ぬって言ったよね」

「そう、私たちはもうすぐ死ぬ。それはお得意の電気ショックでも、銃殺でもないの」

「毒ガス……?」

「ううん、手が込んでいるのに、とっても古典的な抹殺方法」

 再び大きな音を立てて壁が軋む。


「私たちには死因が三つ与えられている。一つは自殺。二つ目は酸欠。ここは密閉空間だからね。三つめは密閉空間であるからこそなんだけど、実はここは地上じゃないの」

「は?」

 ギシギシと音を立てる。今にも壁が壊れそうだ。



はこうして話している間もずっと深く深く海の中に沈んでいってるの」

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