第12話 翼を折られた銀髪少女

 そこは既に都会からかなり離れた森林だった。

 所持品を研究所に置いたまま出てきたために、喉が渇けば川の水を飲まねばならない。例の如く水浴びをするレイナちゃんを同じ光景にして飲む水は童話の味がした。


 <ばしゃん>


「レイナちゃん!?」

 小さな身体はいともたやすく水の流れに飲み込まれていった。反射的に飛び込んだ僕自身も。

 たいした運動はしてないけれど、上手く筋肉を使えない。当然、運動不足という別解釈もこの際、無関係だ。

 翼を、光を浴びた僕がそうだったように、長時間の飛翔と臨界状態は、レイナちゃんにとっても毒だったらしい。なぜって、溺れるのを必死に防ぎながら泳いでいる僕に対して、レイナちゃんはバシャバシャと水しぶきすら起こせていないから。


「ふみ……」

「レイナちゃんはもっと食べないとダメだよ」

 軽すぎて枯草みたいにすぐ流されてたし。背負って川から脱出より捕獲の方が難しいとか天然記念物かよ。

「ゴホッゴホッ!」

 元気づけようといつも通りの語り口調を演じたが、極端な体力の消耗を前にしてはいっさいの治癒力をみせない。

 さりとて病院となると、すぐさま特別治療の名のもとに研究所へ逆戻り。

「少し我慢しててよ」


『史也!?今どこ!?』

 古びた公衆電話に張られた、これまた古びた住所。どうして電話出来たかと言えば、少し罰当たりに思われるかもしれないし、ばちではなく、刑罰が下される可能性も無きにしも非ずなので、今は短い通話時間に集中。

「お金ないから出来れば迎えに来て欲しい」

『遠くに行っちゃダメだよ!』

 初佳は車を持たないので、三人分の電車代が必要になる。となると、なかなかすぐさま到着という訳にもいかないだろう。きっと、お父さんにお願いしなければならないだろう。

「飛ぶから、下ろして」

「まだ無理だろ」

 シルクのように白い素肌は、触れば火照っているのに青白かった。嫌な予感に支配されては共倒れだが、何の経験もない大学生には、肩の荷が重すぎた。レイナちゃんは軽いけど。


「飛べるから」

 夕焼けに銀髪を輝かせながら、彼女は凛とした瞳でそう語った。

「はい」

 今は誰が返事をした?僕なのか?絶対にもう彼女を飛ばせはしないと決めたのに、愚直に僕は彼女を解き放ってしまった。

「大丈夫、私はふみやの天使。ふみやの小鳥じゃないの」


「いずれにせよ、翼を持つモノは鳥籠にいてください」


 電気ショックのような音と共に、レイナちゃんは飛びかけのところで地面に叩きつけられた。

「綾瀬史也、あなたもです」

 なぜここに防護服奴らが――――

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