第9話 消灯間際の足搔き
「彼女は本来、夏に生きることが許されていないのです」
防護服越しに放たれたその言葉は、適温に設定されているであろう研究所兼隔離施設の中で、ひときわ冷たく響き渡った。
冷血漢という言葉が文字面的に的確でないように思えてならないが、きっと目の前の女性だけでなく、ここにいる人間の共通見解なのだろうから、この際自分の揚げ足取りはやめておくとしよう。
「理由を聞いてもいいですか」
「詳しい話は出来ません。しかし、精神を浄化する目的で、判明している事実の一部をお話する事はこちらの義務でもあります」
マインドコントロール状態にあるのを当人が気づけないように、僕もまた、レイナちゃんと出会う前と後での自身の心の違いを認めるのは容易ではなかった。
むしろ今でも、気絶した直後に見ている夢の一種だとさえ感じているくらいだ。
じゃあ、それはどこから始まったのか。
やはり起点はレイナちゃんとの出逢いであるという他ないのが本心でもある。
「冷却と表現したように、柊レイナは熱してはいけないのです」
「それはどうして」
「現象説明は機密ですのでしかねますが、臨界状態、すなわちあの翼が認められたと同時に確認できる発光には、非常に強力な有害性があり、精神汚染を経て、最後には死に至ることがデータで判明しております。そして翼の出現条件の一つに、[高温による『
「それは………病気みたいなものなんですか?」
だってそうじゃないか。超能力者や鳥人間なら自由自在に飛び立つことが可能なだけで、有害光線なんて出しはしないはずだ。
だからって、奇病や原因不明の不治の病が未だ多くある現代社会でも、こんな話は聞いたことがない。
「失礼、面会時間は以上です」
「ちょ、ちょっと!」
質問の途中かどうかなんて、知人ですらない彼女には一切関係無いようだ。それとも義務が無いからか。
きっと初佳は心配してるだろうな。レイナちゃんは………いや、心配してくれてるさ。
――精神汚染――
ここからの脱出はまず不可能として、自由になるにはこの問題を解決しなければならない。
SFマニアでなくとも、ここでの治療に甘んじていては、僕が僕でなくなり、レイナちゃんがレイナちゃんでなくなる事くらい分かりきっている。
出逢ったことに後悔するなんて、昔ながらのメロドラマ俳優などに任せていればいいんだ。
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