第8話 呪うべき運命も知らずに
「目が覚めましたか、綾瀬史也さん」
声からして年上の女性のように思われたが、防護服の中をこちらから見る事は出来ない。
病院のような、それでいて治療というより研究が目的のような場所。そこでカメラと防護服の女性に見つめられて起きる者の心境は、文学部の学生と言えども、表現に難がある。
「レイナちゃんと初佳は?」
「伊藤初佳さんは先に帰宅してもらいました。彼女はまだ貴方を通してしか接触していなかったので、特に問題はないと判断してのことです。しかし、柊レイナに接触、それも臨界状態を数回、至近距離で目撃しているアナタには、ここに残ってもらわねばなりません」
「………臨界?接触?」
「本来であれば、この施設の存在自体、民間人であるアナタが知る権利は無いのです。不明瞭かと思いますが、これも義務でして」
僕に対して申し訳なく感じているのかどうかは、真っ黄色の宇宙服のような防壁によって、真意と共に包み隠されていた。
「じゃあ、レイナちゃんの方はどうなんです?今どこに」
「彼女、柊レイナはアナタ同様、ここで隔離されています」
「どうして僕らは隔離なんて真似されなくちゃならないんですか」
「それは違います」
「どう違うんです」
「柊レイナは、人類の業が生み出した悪魔そのものです」
確かに僕だってレイナちゃんを普通の女の子やあるいは天使だなんて楽観的に捉えている訳ではない。
だが、一方的に危険視されることへの反感は、大学2年の若さゆえか、それとも現代道徳教育の賜物か、心の底に封じ込めることが出来なかった。
「レイナちゃんは悪魔なんかじゃない!」
「綾瀬史也さん、アナタと議論するつもりはありません。むしろ、その感情こそ、アナタが伊藤初佳さんと違って、ここに残らされている理由なのです」
「感情………?」
「アナタは至近距離で臨界状態の柊レイナと接触しました。それによってアナタは精神汚染被害を受けた可能性が非常に高いのです」
「精神汚染!?」
「あの翼とそれに伴う発光には、人間の原罪への欲求を高め、自由意思が柊レイナの『
『到底信じがたい』などという次元は、レイナちゃんと出会ってすぐに使い飽きた。
そうだとしても、今回ばかりは信じたくなかった。
「特別に質問にお答えしましょう。柊レイナは現在、当施設内で冷却中です」
「冷却中?」
まさか熱中症なはずもなく、防護服を目の前に、僕は自然と映画などで見る『冷凍保存』を想像していた。
「彼女は本来、夏に生きることを許されてはいないのです」
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