第7話 出逢いは別れを浮き彫りにする

「ふみや、あの子って彼女?」

「初佳?違うよ」

「かわいいね。あんまりよく見えないけど」

「何だよそれ」

 カラカラという特徴的な音にひかれて振り向いた先には、ほのかに水気を帯びた黒色の浴衣を着たレイナちゃんが笑っていた。

「どう?彼女さんとどっちがかわいい?」

「彼女じゃないって」

「彼女じゃなくて、私の方がかわいいってことかぁ」

 無邪気に笑うその姿もまた、僕の知らないレイナちゃんの一面だった。

 夏祭りは天使も幼馴染も無礼講。


「ねぇー史也ぁー!怖いからやめてよ!」

「何をー!」

「ぶつぶつ独りごと言うのやめろっての!」

「一人じゃねーよ!」

 怖いならこっちに来ればいいのに、わざわざ大声で話し合うなんて、レイナちゃんから見ても子どもっぽく映るに違いない、なんて考えてたら段々ホントに恥ずかしくなってきた。


「おいでよ、紹介するから」

 振り向いた時にはしんと静まり返った湖だけが、僕の言葉を受け止めていた。

 それはまるで、四方八方で夏の虫が鳴いているのに、どこにいるのか見つけられないかのようで、レイナちゃんが一つ夏の風物詩でしかない気がしてならn――――


「わ!」


 どうも、レイナちゃんは目を離した隙に隠れる癖があるみたいだ。

「悪癖だぞ」

「ふみやビビってた~」

「うるせ。ほら、初佳の所に行くぞ」

「は~い」

 少女ゆえの幼さなのか、はたまた夏祭りの雰囲気にあたった童心なのか。とにかくレイナちゃんはご機嫌のようだ。キツイお言葉をくださるレイナちゃんもまた、かくれんぼのせいで、少しはだけかけている黒を基調とし白の糸で花模様を着飾った特徴的な浴衣の中に、確かに上品に秘められている。


 その浴衣が花火の明かりで何とも言えない色に開花した時、レイナちゃんは無邪気さを喪失した。

「あ"あ"あ"ああああああああああ!!!!!!!」

「レイナちゃん!?」

「な、なに!!??」

 少し向こうで初佳の怯えた声が聞こえたかと思えば、すかさずレイナちゃんの悲鳴にかき消される。

「イヤいや嫌イヤいや嫌」

 小さく縮こまり、これまた小さな手のひらで精一杯、耳を覆い隠すその様に、僕もまた叫びたいような不安を感じていた。


 木々に隠れていた鳥や何かがバサバサと一斉に飛び立つ。

 草木の揺れるのと同時に、その茂みからは揺ら揺らと、いや、刻一刻と存在感をあらわにしていく防護服の連中が居た。


 その色味をしっかりと僕が見えるようになったのは、手の中に抱きかかえた少女レイナの発光する翼のおかげだった。

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