第3話 少女と神隠し
「もしかして夏バテ?」
「いいや」
「じゃあ、もっとシャキッとしなよ」
「翼………」
「ツバサ? もしかしてだけど、史也の彼女?」
「だったらいいんだけどな」
「ハッキリしなよ、ひょろがり」
「誰がひょろがりだ。見ろよこの腹筋」
「ちょ、ちょっと!?何いきなり脱いでんの!!??」
僕はまた、レイナちゃんの目の前で気を失った。
あの翼を、そしてあの光を目の当たりにしたとき、僕は熱中症のような状態におちいった訳だが、いくら夏だと言っても、これまでこう度々連続して倒れたことはない。
だから、たとえ僕にスピリチュアル的な趣味がなかったとしても、あの寡黙で口を開けば僕を逮捕させようとする文言を放つ白ワンピース女子は、奇跡の存在であると錯覚させた。
それでも、気を失わせる理由はなんだ。
天使ならば僕の願いを叶えるに違いないのに、一瞬であれ、僕の健康を損ねるようでは、宗派に違いはあれど、人は彼女を悪魔と表現しかねない。
「わからん」
膨張色を着こなすレイナちゃんの本当の肉付きが分からないように、日本の夏はいつだって不思議なモノだ。無論、僕は海外の夏を知りはしないが、怪談が一文化として根付いているのが証左であると独り合点。
「私が見つけなきゃ、ぜったい大変なことになってたでしょ。少しは幼馴染の女の子に感謝した方がいいよ」
「そうだな、幼馴染の女の子ありがとー」
「ばか」
引っかかる言い方に釣られて思い出したのは、今回はレイナちゃんは心配して僕の真横にたたずんでいたのではなく、翼を広げ、僕が気絶するが最後、姿を消したことだ。
ファーストコンタクトの一例を基本的なレイナちゃんの応対と仮定するなら、今回の素っ気なさはかえって僕の方が心配にさせられる。
こうして偶然、初佳が僕を見つけてくれなければ、あのまま地面に寝っ転がっていた事になるが、もしかすると、レイナちゃんも気絶していたのかもしれない。
そして、眠り呆けていた奇妙な大学生である僕と違って、レイナちゃんは良からぬ人間に誘拐されたのかもしれない…………
「ちょっと史也!?」
都市伝説並なザル推理だが、気づけば初佳を放って走り出していた、どこかへ。
むしろ、どこに行くかは重要でないからこそ、無我夢中に走り出したのかもしれない。
初佳の実家・伊藤家から抜け出すと、そこは田舎の夕闇に覆われていた。
街灯が遠くの距離で等間隔に統一的に倒立していたが、走るべき道のりは照らしてはくれなかった。
友達でも禁断の恋人でもロリコンでもない僕が、こうして目覚めてすぐに、例年になく走っているのは、きっとあの翼の魔力に違いない。
超常現象が地元の田舎でついに起こった、いや、起こっているんだ。
想像の遥か上をゆく彼女を探すには、自らの意志で道を創造しなければいけない。
きっと、無事で――――
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