9、天才故に

また来ますねぇ、と言いながら。

去って行った飯島。

俺はその後に.....呼び出された。

誰に、と言えば簡単、芽衣子である。

タイマンをしましょう、的感じで空き教室に呼び出された。


「.....正直言ってあんな子が居るなんて聞いてないんだけど」


「.....そ、そうですね。話損ねてたよ」


「.....そうなんだ。隠していた訳じゃなくて?ふーん.....」


「ご、御免なさい」


怖いんですけど。

何というか目線がキツ過ぎる。

どうしたものか、と思いつつ空き教室で正座させられていると。

芽衣子は、ゆ。誘惑される?、と聞いてくる。

俺は、誘惑されない。そもそも.....俺はアイツに恋心は抱いてないよ、と答える。


「.....本当に?」


「こればかりは嘘を吐いてない。そもそも俺は付き合うつもりも無い」


「じゃあ.....それを証明してくれる?」


「.....は?いや、証明って何だ」


「.....ちゃんと断ってくれる?.....その。あの子の告白。こんな事を言ってしまって悪いと思っているけど.....」


まあ断るつもりです、と足をあぐらの様に崩しながら回答する俺。

俺は言いながら芽衣子を見る。

芽衣子はホッとした様子だった。

何でホッとするのか分からないがまあいいや。

考えながら俺は芽衣子を見る。


「告白は本当に嬉しいんだけどな。.....だけど俺は飯島と付き合うつもりは今は無いからな.....。それにアイツの事はその。師弟としか思えないし」


「.....やっぱりあの子は頭良いの?」


「無茶苦茶に頭が冴える。まあその.....IQ自体も130超えるとか聞いたしな。5歳で小学生高学年レベルの算数出来ていたそうだし」


「.....そうなんだね」


俺に勝負をして来ていて。

いつか知らないがそれが恋心になった、という事だろうな。

立ち上がって考えながら俺は窓から外を見る。

少しだけ複雑な顔で、だ。

すると芽衣子が、何でそんな顔をするの?、と聞いてきた。


「滅茶苦茶に頭が良いんだ。.....だから問題が起こるんだよな。.....そうだな。簡単に言えば天才過ぎて.....人付き合いが分からないんだ」


「.....!.....それってさっきの暴言みたいな感じ.....」


「そうだな。あれは多分自らも言いたい訳で言っている訳じゃ無いと思う。.....まあ本当に人との距離が分からないんだよ。彼女は」


「.....そうなんだ.....」


だからまあ.....簡単に言えば。

芽衣子と同じだな、と思う。

何というか芽衣子も最初の頃は人との距離が全く分からない感じだったから。

俺はそれを懐かしく思い出しながら.....芽衣子を見る。

芽衣子は、じゃあ仲良くなれるかな、と俺を見てくる。


「.....仲良くなれると思うぞ。彼女に積極的に.....接してあげれば」


「そうだね。それだったら嬉しいな」


「そうだな。お前は友達が居ないもんな。あまり」


「.....分かり合える人は少ないね」


「.....ああ」


俺は苦笑いを浮かべながら.....芽衣子を見る。

芽衣子はしんみりしながらも俺を見て笑みを浮かべる。

それから踵を返した芽衣子。


じゃあ行こっか、と言ってくる。

俺は、ああ、と返事しながら歩き出そうとした。

その時にブチッと音が.....して。

芽衣子が胸元を押さえて真っ赤になった。

俺は目をパチクリして芽衣子を見る。


「.....何の音だ?」


「.....サラシが.....千切れたかも.....胸が大きくなる感触があった」


「.....ふぁ!?.....お、オイ!?どうすんだ!?」


「.....こ、こっち見ないでいてくれたら.....直す」


「直すのかよ。ってか直るの?」


直ぐにパパッと直す、と芽衣子は言う。

俺は、本当に大丈夫か?、と聞く。

芽衣子は、う。うん。.....多分、と呟く。

俺は少しだけ赤くなりながら、わ。わかった、と返事する。


「.....こっち見ないでよ。絶対に」


「.....わ、分かりました」


そして上着を脱ぐ音がしてから。

シュルシュルと外す音がする。

つまりアイツは.....今胸が露出した状態.....イカン!煩悩が頭の中に!


これはイカンぞ.....さて.....南無三!

あのカフェの苺パフェってどんな味だっけ、と考える。

すると呼び掛けが聞こえた。


「ねえ」


「.....え!?は。はい!何でやんす!?」


「わ、私って胸大きいよね。.....男の子って胸が大きいの好きだよね。それは傑も?」


「お前はアホか!?この状況で一体、何を聞いてくる!」


「.....一応、聞いておこうと思って」


大きな胸は確かに男のロマンだとは言えるが。

この状況でそれはかなりアカンと思うんだ。

下半身もエクスプロージョンするし。

絶対にかなりマズイと思う。


「.....エッチな事をしない。.....だから胸が大きかろうが小さかろうが.....女性は中身だしな」


何を言ってんの俺。

額に手を添えながら.....俺は壁を見る。

すると.....背後からいきなり抱き締めら.....れた?

それも胸の感触が.....ある。

嘘だろまさか!!!!?


「.....こっち見たら駄目」


「何やってんのマジに!!!!?お前本気!?馬鹿なの!?」


「.....わ、私だって恥ずかしいんだから」


「いやいや!恥ずかしいならやるなよ!何やってんの!?」


「.....傑は.....大きな胸の方が好き?」


真っ赤になりながら俺は抵抗する中でそう言われた。

俺は逃げ道を模索するが無いと思ってしまう。

ギュッと抱き締められている。

俺は仕方が無く、ま。まあ何方かと言えば胸が大きい方が好き、と答える。

すると少しだけ握る手が強くなる。


「.....じゃあ私の男装も嫌いにならない?」


「.....嫌いになるとかならないとかの問題じゃ無い。お前は良い子だ。良い女性だから。嫌いになるとか無いっての」


「傑は優しいね。こんな変態な事をしている女の子にも」


「.....お前が何を目的としてこの様な真似をしているかは分からない。でも俺達の間の約束で.....それを聞かない事にしているからな」


「.....だから傑は嫌いにならないの。私」


それから暫くギュッと抱き締めていた芽衣子。

俺はその様子には途轍も無く恥ずかしかったが.....嫌いでは無かった。

人の温度ってこんなにも暖かいんだな、って。

そう思えた様な気がしたから、だ。


「.....傑。今度ね。私.....買い物に行くの。一緒に行かない?」


「.....何処に行くんだ?」


「ショッピングセンターだよ。その帰りに.....鏡花の家に寄ろうと思って」


「.....そうか。じゃあ行こうか」


「うん」


それから芽衣子は俺から離れ。

そしてサラシを巻いて何時もの感じに戻った。

そうしてから教室に戻ると.....飯島が俺を探していた様にやって来る。

せーんぱい、と、だ。


「何処行ってたんですか?もー」


「.....すまん」


「あ、そうだ。で。私の告白のお返事を聞きに来ました!.....付き合ってくれます?」


「.....御免な。俺は今な。誰とも付き合う気は無いんだ。すまない」


「.....そうですか。.....まあ予想はしていましたけど.....です」


それから俺は芽衣子を見る。

芽衣子は俺を見上げて頷いて一歩を踏み出す。

そうしてから飯島を見る。

飯島は?を浮かべながら芽衣子を不審がる。


「えっと。何ですか?」


「.....わた.....じゃ無い。僕ね。.....君の過去の話を聞いたよ」


「.....え!?.....まさか.....話したんですか?先輩」


「.....まあな」


「いやいや.....もー.....」


でも先輩以外に興味無いですから。

と俺にニコニコしながら向いてくる飯島。

俺は、芽衣子はお前と友人になりたいと思ってる、と答える。

飯島はビックリしながら.....芽衣子を見る。

私は男の人とは友人になりたく無いです、と眉を顰めて答える飯島に。


「.....僕は女の子だよ」


と芽衣子は告白した。

言葉に驚愕する飯島の手を芽衣子は握る。

って言うか俺もビックリなんだが。


まさかそんな事を言うとは思わなかった。

と思いつつ芽衣子を見る。

そして芽衣子は、私もそれなりに孤独だったの、と答えた。


「この学校の戸籍は男だけど。私は女の子。.....それはね。.....色々あって昔、孤独だったからそうなったの。貴方の気持ちとてもよく分かるから」


「貴方の気持ち分かるって.....別に孤独じゃ無いです。私は.....」


「.....うん。そうだね」


「.....まあ私は頭が良過ぎて人の気持ちが理解出来ないだけですから」


うんうん、と頷きながら優しく聞く芽衣子。

だんだん飯島の目に涙が浮かんできた。

それから、孤独じゃ無いから。別に理解者が欲しいとか無いから、と涙声で言う。

その事に優しく芽衣子が飯島を抱き締めた。


「.....私と友達になって下さい」


「.....私は.....」


飯島が俺を見上げてくる。

その事に、まあ良いんじゃないか、と答える俺。

それから.....飯島の頭を撫でた。

優しく、だ。


「.....友達になれそうか?飯島」


「.....はい」


飯島は涙を拭いながら答えた。

理解者、か。

俺は考えながら笑みを浮かべた。


到底.....俺の全てを理解してくれる人は出て来ないだろうけど。

でもコイツらの事ならきっと。

そう思いつつ俺は.....見ているとチャイムが鳴った。

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