4、芽衣子が秘めている想い

「君が好きなんだ。私」


「.....山吹。どういう事だ。こんな俺なんか好きになっても意味が無いぞ」


その日の放課後に俺は山吹に宿題を教えて欲しいと言われた。

それから2人になった瞬間。

俺は山吹に赤面の顔を向けられ、そう言われた。

愕然としか言いようが無い。


「今付き合っている人居るの?」


「.....居ないけど.....」


「.....じゃあ付き合ってくれないかな」


「.....そもそも何で俺なんかを好きになったんだ。有り得ない」


恋って不思議だよ?

何時もコロコロ変わるし.....それに私は運命の人が君だったってだけだよ、と笑顔を浮かべる山吹。


俺は.....口元に手を添えて真っ赤になる。

いかん嬉し過ぎる.....。

まさかこんな美少女に告白されるとは思ってなかったから.....。

考えながら窓辺に座る山吹。


「.....私は君の返事が聞きたいな」


「.....山吹。.....有難う。嬉しい。.....だけどな。俺は.....お前に似合わない」


「.....もしかして昔の事が有るのかな」


「違う。単に俺とお前では似つかわしく.....」


「大丈夫。私は君が好きだから」


言ってから寄り添って来て見上げてくる山吹。

私、君の本心が聞きたいかなって思う。

と山吹は笑顔を浮かべた。

赤くなりながら、だ。

ますます俺は.....赤くなる。


「.....山吹。.....じゃ.....」


そこまで言い掛けて。

俺は過去がフラッシュバックした。

数学の問題が頭を過ぎる。


そして頭痛がして頭に手を添えて蹲る。

山吹が、ど。どうしたの!?、と大慌てで俺に寄り添う。

それから涙を浮かべた山吹に、大丈夫だ。何時もの発作だ、と答えた。


「.....俺な。やっぱりお前とは付き合えないと思う。そして俺の将来は多分誰とも付き合えないと思う」


「.....大変なんだね」


「ああ。天才から落ちてから俺は.....相当に言われたよ。色々と」


「.....だから私は君を支えたいんだよね」


「.....!.....山吹.....」


私.....やっぱり君が好き、と山吹は俺の手を握ってくる。

そして俺を見てくる。

その顔は至近距離にあった。

このままではキス出来そうな距離だ。


「.....」


「.....」


そんな感じで見つめ合っていると。

駄目!、と怒った様な声がした。

振り返るとそこには芽衣子が居る。

芽衣子は悲しげな顔で怒っている様に見えた。


「.....教室でそんな事しちゃ駄目だよ」


「そ、そうだよね。山彦君」


「だ、だな。確かにな。山吹」


俺達は慌てて離れる。

芽衣子はホッとした様な感じで見ていた。

なんかちょっと惜しい感じがしたが。

まあ仕方が無いよな、と思いながら山吹を見る。


「じゃあ.....帰るね。また返事聞かせて」


「.....今度な。分かった」


恥ずかしくなったのか山吹はそそくさと去って行く。

俺はその事に名残惜しい感じを醸し出しながら芽衣子を見る。

芽衣子は不愉快そうな顔をしていて俺を見る。

何だよ一体.....。


「キスしようとしたよね」


「.....そうだな。それがどうした」


「.....駄目。絶対に駄目」


「いや、ちょっと待て。意味が分からないんだが。良いじゃないか。俺は山吹に告白されたんだから.....好きって。良い雰囲気だったし」


愕然とする芽衣子。

それからカタカタワナワナと震える。

そして拳を握ってから涙目になっていく。

何なんだコイツは.....。

邪魔ばかりして.....、と思っていると。


「.....私だって。.....私だって傑と一緒にずっと居た。だから私の方が上だから!!!!!」


「.....オイオイお前.....女子語になって.....」


「良いんだもん!!!!!私は傑が.....傑が.....!!!!!」


そこまで言ってからハッとした芽衣子。

それから荷物を持ってから駆け出して行く。

お、オイ!、という呼び掛けも無視。

そして後には俺だけが残された。


「いや。割とマジに何なんだこれ.....」


呆然とする中。

俺は教室にただ1人だけ残された。

何だってばよ本当に。

考えながら俺は.....オレンジ色の教室でただ1人、顎に手を添えるが。

答えは浮かばなかった。



自宅に帰ってから俺はリビングで宿題をする。

そうしていると妹の道葉(みちは)が俺を見てきた。

中学3年でそばかすが有る目がクリッとした美少女だ。

学校でも人気のある子らしいが。

道葉は、数学?、と聞く。


「.....違うな。現文だ」


「.....そうなんだ。頑張ってるんだね。お兄ちゃん」


「.....まあ.....数学を奪われてからはこういうのしか無いからな」


「.....」


道葉は知っている。

俺が天才で無くなった事も。

そして俺が.....呪われている事も全部、だ。

その事に涙を浮かべてくれた。

泣いてくれたのだ。


「.....道葉」


「.....何?お兄ちゃん」


「.....俺ってさ.....モテる顔か?」


「.....え?それってナルシスト?」


「違うわ。アホ」


ナルシストきもーい、とか冷やかしてくる道葉。

俺は、違うって言ってんだろ、と溜息を吐く。

道葉は、じゃあ何なの?どうしたの?、と聞いてきた。

その言葉に、今日な。同級生に告白された、と言う。


「え?本気で?」


「.....そう。で、モテる顔なのかなって」


「.....うーん。そんなにイケメンじゃ無いよ?」


「おう。かなり直球だな」


「おうよ」


全くコイツは。

考えながら俺は苦笑いを浮かべる。

それから目の前の宿題を見る。

なんか集中出来ん、と思いつつ、だ。


「でもお兄ちゃん。好きって言われたからにはキチンとしてね。じゃ無いと芽衣子君が、しっかり、とか言って怒るよ」


「.....あ。.....ああ」


『私の方が上だもん!!!!!』


あれはどういう意味だったのだろうか。

考えながら芽衣子が女性である事を話そうと妹に向いたが。

話すのはマズイか、と思い口を閉じた。

その代わりに恋愛テクについて聞く。


「お前モテるじゃん?恋愛に関して詳しいの?」


「.....私?.....私は恋愛はイマイチだけど.....話そうか?テクニック」


「まあそうだな。女性の気持ちを気軽に聞けるのお前しか居ない」


「まあ確かにね。.....分かった。告白されたお兄ちゃんに全てを教えてしんぜよう」


「ははー」


などと言いながら俺達はふざけ合う。

そして笑い合った。

それから俺は明日の芽衣子に、山吹に改めて向く為に恋愛テクニックを教わる。

女性の抱えている気持ちとか、そんなのを。

そして翌日になった。

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