3、山吹の告白
「お前は自らの将来を考えているか?」
担任の大柴。
大柴卓郎(おおしばたくろう)。
中年の眼鏡の痩せ型のオッサンだ。
年齢は知らない。
俺は将来の事を言うその大柴に、今の所は何も定まらないです、と答えた。
過去があんな目に遭ったしな、と思いつつ、だ。
その事に事務椅子をギシッと鳴らしながら、そうか、と大柴は天井を見上げる。
「実はな。お前の将来のアンケートがあまりにもイマイチな返事だったから呼び出したんだ。それで聞いてみたんだが。まあふざけるのもお前だからな」
「.....ああ。そうだったんですね。.....色々とすいません」
「何というかまた数学の全国模試に挑む気は無いのか」
「.....無いっすね。.....俺は凡人になったので。天才少年は死んだんです」
「.....そうか。それならそれでも良い。お前なりの人生だからお前の人生を尊重する。.....だったら数学以外の道で歩むんだな?」
そうですね、と俺は大柴に向く。
大柴は、そうか、と笑みを浮かべた。
何というかこの人はあと何年かで定年の人だ。
その影響もあるせいか俺達にかなり優しい。
良い担任の先生だと思える。
「.....まあ数学を取ってもお前は天才だと思っている。だから市川。お前はお前なりの道を歩め。将来が決まったら言ってくれ」
「.....はい。有難う御座います」
「ところでもう一個用件が有るんだが.....」
「?」
山彦の事だ。
と言われて俺はギョッとする。
もしや女性で有る事がバレた?、と思ったのだが。
別の事を大柴は言い始めた。
山彦は最近1人が多いな、と、だ。
俺はホッとしながら、ああ。成程ですね、と回答する。
「.....彼にそれなりに配慮してやってくれ。お前だけが頼りだしな。市川」
「.....はい。分かっています。彼は友人なので.....」
「.....そうか。有難う。.....みんな仲良くが俺の最終目標だからな」
「.....相変わらずですね。先生」
「ああ」
大柴はタバコを咥える。
そして火は点けないがくわえタバコのまま俺を見てくる。
大柴の良い所はこういう所だ。
つまり.....クラスを纏めようとするのだ。
例え不可能でも、だ。
「将来ってそんなに簡単に決まらないよな。俺もそうだった」
「.....」
「.....だからお前もゆっくり歩め。だけど時間は限られている事は忘れない様にな」
「.....はい」
俺は言葉に頷きながら居ると。
大柴は、それだけだ。すまないな。呼び出したりして、と笑みを浮かべる。
その言葉に、いえ、と頭を下げる。
そして、では失礼します、と去って行く。
「お前も.....それなりに友人を作れよ。市川」
「.....はい」
それから俺は職員室を後にした。
そして考えながら歩いていると目の前から芽衣子が来た。
何の話だったの?、と聞いてくる。
俺は、将来のアンケートについての話だったよ、と答える。
芽衣子は見開きながら、成程ね、と笑みを浮かべる。
「また適当に書いたんでしょ。君」
「.....将来は冒険家になりたいしな」
「またそんな事。無理だって」
「.....まあな。知ってるよ」
「.....でもそういうはっちゃけているのも面白いよね。大柴先生にはジョーク通じないだろうけど」
まあな、と答えながら俺は芽衣子と一緒に教室に帰る。
するとその途中で芽衣子が顔を上げた。
それから俺を見てくる。
な。何だ、と思いつつ芽衣子に反応する。
何だよ、と、だ。
「.....山吹さんの事好きなの?傑」
「.....ハァ!?何処をどう見ればそうなるんだこら!?」
「じゃあ違うんだね?絶対に」
「違うよ!何でだよ!」
「.....君を見る目が違ってるから。山吹さんは」
そんな馬鹿な。
有り得ないってばよ。
仮にもアイツは美少女なんだぞ。
それに告白もされる様な、だ。
有り得ないしナイナイ。
俺はそんな感じで否定するとホッとした様な顔をした。
芽衣子が、だ。
「.....どうしたんだ?芽衣子」
「は?何でも無いし!」
「オイオイ。女子モードになってる」
「.....は!.....な、何でも無いよ」
「.....?」
意味が全く分からない。
だけどまあ聞くのもアレだし聞かない事にしよう。
思いつつ俺は溜息混じりで芽衣子と帰って来る。
すると早速と山吹が女子と話すのを止めてやって来る。
コイツが?ナイナイ。
「何の話だったのぉ?」
「.....まあ俺の将来に関する話だったよ」
「そうだったんだね。またふざけた事を書いたんでしょ?」
「.....煩いな.....」
そんな会話をしていると。
芽衣子が間を割って入って来た。
はいはい。もう良いから、と、だ。
何だよオイ.....、と思いつつ芽衣子を見るが。
芽衣子は嫉妬の目しかしてない。
「.....ど、どうしたの?山彦君」
「あ、えっと。.....可愛い山吹さんに傑が近付いてほしく無いかなって」
「またまたぁ。女性褒めるのが上手いね山彦君」
「.....」
何だか違う気がするのだが。
まあそれは言わん方が良いか.....、と思っていると。
チャイムが鳴った。
タイミング良く、だ。
「じゃあまた」
「僕も帰るね」
「.....あ?ああ.....」
しかし芽衣子は何であんなに踏み込んでくるのか。
意味が分からないのだが.....まあ.....何か考えがあるのだろう。
考えながら俺は授業を受ける事にした。
のだが.....放課後にとんでも無い事になってしまう。
それは芽衣子がラブレターへの返事を学校裏でしている時の事。
「私ね、君が好きなんだ」
そう、山吹に放課後のオレンジ色の教室で告白された。
俺は愕然としながら.....山吹を見る。
山吹は.....俺を赤くなりながら縋って見上げてくる。
一生懸命な君がずっと好きなの、と。
そう言われた。
俺は.....ただ衝撃を受けざるを得ずだ。
そして返答しようとしたが言葉が出て来なかった。
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