第4章 5話 小山理央の休日。

 4人で夜ご飯を食べた。僕も友乃も瑞希もお風呂に入ってから、ゆっくりお腹いっぱいになるまで食べた。


 友乃はさっきよりも笑顔が増えた気がした。


 瑞希の作戦は今のところ上手くいってるらしく、明日からが楽しみだと笑っていた。


 また、性格の悪さを存分に使った汚い方法なんだろうな、と思ったけど、どんな形であろうが、友乃が助かるならいいと思った。



「本当に信じられないね。しかもこんな、趣味の悪い服。」


「瑞希がそんなことされたら、その場で殴ってクビになりそう。」


「殴りはしないけど、わざと大声出して周りに知らせるかな。えー、プレゼントなんて受け取れないですー、とか言って。友乃、まさか、密室とかに連れて行かれてないよね?」


「給湯室で渡された。だから、みんなそれなりに見てるとは思うんだけどね。」


「他になんかされてない?体触られたりとか。」



 瑞希のその言葉に一瞬手が止まる。それは凌も同じで、友乃の方を見ていた。



「今のところは。ご飯誘われたりとか、そんなのは結構あるけど、全部適当に流してる。」


「無いわ、本当に。」



 友乃の言葉に信じられないという顔をする瑞希。



 うん、流石にちょっと。僕も直接言ってやりたいくらいだな。


 どこのどいつか知らないけど、とりあえず殴らせて欲しい。



「ねえ、理央。むかつかない?」



 瑞希は僕の方を見て、訴えるように言った。



「むかつくどころじゃない。殴りたい。」


「だよね。犯人見つかったらみんなで殴りに行こう。」


「瑞希、やめときなさい。」


「それくらいの気持ちってこと。凌もそうでしょ?」


「そうだけどさ。ここだけにしといてよ。」


「分かってるよ。」



 友乃は黙って僕たちの会話を聞いていた。



 この話題、嫌なのかもな。


 会社で嫌な思いしてるなら、その分ここでは少しでも楽しい思いして欲しいからな。



「とりあえず、明日なんか変わるんでしょ?今はいいんじゃない?」



 僕が言うと、瑞希がハッとした顔をして、友乃を見た。



「そうだよね。今日も4人で映画観る?」



 瑞希の言った言葉に、友乃が笑顔で返した。



 ああ、よかった。


 瑞希は周りを見てることが多いけど、何か自分の中で熱くなってしまうことがあると、完全に周りが見えなくなるのが悪い癖だ。



「そういえば、プラネタリウムみたいなやつ貰ったんだよね。使ってみない?」



 凌が言ったプラネタリウムみたいなやつは、小型の家庭用プラネタリウムだった。スイッチ入れると、部屋に星空が映し出されるやつ。


 会社で女性社員に貰ったらしい。



 本当にモテるやつだよな。


 なんてもの貰ってるんだ、と思ったけど。



「理央の部屋がいいんじゃない?」


「え?」


「一番、物が無いじゃん。」



 確かに僕の部屋はものが無いけど。


 物が無い方が映えるということなのか。



 向かい側に座っている友乃が、僕の方を見て首を傾げる。


 それがあまりにも可愛いから、僕は反射的に、いいよ、と言ってしまった。



「よし、じゃあ早く片付けちゃおう。」



 瑞希がそう言って、食器を持って立ち上がった。凌もそれを見て立ち上がった。


 キッチンとの往復で食器を片付ける。



 友乃はもう少しで食べ終わるところだったから、僕は友乃が終わるまで、友乃の隣に座って待っていた。


 友乃は僕の事をちらっと見て、また残っているご飯に目を戻した。



「どうしてみんな、そんなに優しいの。」



 友乃は小さい声で呟くように言った。


 控えめにもぐもぐと食べている友乃を見て、僕は友乃の腰に腕を回した。



「友乃が優しいからだよ。」


「私、優しくないよ。」


「自分で分からないだけだよ。」



 僕は友乃の頭を撫でた。


 友乃は少し笑顔になって、最後の一口を食べる。



「プラネタリウム。理央、いつ振り?」



 友乃は箸を置いてから、僕の方を向いて言った。



 プラネタリウム、いつ振りだろう。



「小学生とか?」


「私も、そうかも。楽しみ。」


「うん、本格的じゃないけど、僕も楽しみ。」



 友乃は僕に笑いかけてから、食べ終わった皿を持ってキッチンに向かった。



 なんとなく、元気は戻って来てる気がする。


 よかったな。



 さて、部屋の片付けでもするか。



 キッチンにいる3人に声をかけて、自分の部屋に向かった。



 少しは片付けないといけないな。


 どうせいつもの流れでここで雑魚寝になりそうだから。



 ひとりで部屋の片付けをしていると、扉をノックする音が聞こえた。


 返事をすると、入ってきたのは友乃だった。


 友乃は少し笑ってから、座椅子に座った。


 昨日と同じ体育座りだ。



 僕は片付けを終えて、友乃の隣に並んで、友乃を抱き寄せた。



 昨日、凌に言われて気分が下がっていたのも、きっと会社での出来事が頭に浮かんで女の子扱いされたのが嫌だったんだろうな、と話が繋がった気がしてひとりで納得していた。



「みんな、友乃の味方だからね。」


「うん、ありがとう。」



 僕は友乃を抱きしめた。


 この気持ちが、ちゃんと伝わればいいな、ってそんなことを思いながら、精一杯抱きしめた。




 ふたりが来てから点灯されたプラネタリウムは、思っていたよりも本格的で、綺麗だった。



 隣で感動したように笑顔を零していた友乃の横顔を見て、僕が守っていきたい、って強く思った。



 時計の針が0時を指した時、日付を示す時計が2月14日と表示した。





 これが俺、小山理央のとある休日。

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