第4章 2話 小山理央の休日。
凌が上がってきて、友乃が今お風呂に入っているところ。
友乃が買ってきたのはたらこのパスタで、僕にはミートソースパスタ。凌は自分で買ってきた豚丼。
今は、リビングで凌とふたりでゲームをしている。
リビングでふたりでやるのは久し振りだな。
いつもは、凌の部屋に行ってやることが多い。
凌はゲームが好きで、部屋はゲームがたくさんあるから、懐かしいものから最新のものまで、なんでも出来て楽しい。
「さっき、ニヤけてただろ。」
「え、いつ?」
急に凌から言われて動揺した。
手元が狂ってしまって、敵からまともに一撃喰らってしまったほど。
僕、やっぱり切り替え出来てなかったのかも。
「リビング戻ってきた時。どうせ、友乃と電話でもしてたんだろ。」
「なんで分かるの。」
「昔から変わらないから。」
「だって電話の時の友乃、可愛いんだもん。」
「お前らは、どうなりたいわけ?」
「友乃が隣で笑ってくれてれば、僕はそれで幸せ。」
「それはみんな同じだよ。」
凌にも瑞希にも、友乃とどうなりたいの?なんて聞かれることが多いけど、どうなりたいとか、そんなものは特に無い。
きっと友乃もそう思ってる。
ただ、誰にも取られたくなくて、一緒にいたくて、友乃の1番になりたいだけ。
そうやって言うと、どうなりたいなんて無いなんて嘘だろ、って言われるかもしれないけど、僕にとっては、それが友乃との関係の最低限だから。
「友乃のことあんまり独占すると、瑞希が怒るよ。」
「瑞希には負けてないと思うよ。」
目の前の敵を倒して、その先いる敵も1発で仕留めた。
これには凌も驚いていて、自慢げに笑ってしまった。
瑞希には負けないのだ。友乃のことも、ゲームでも。
凌は僕の顔を見て、呆れたように笑っていた。
瑞希も友乃のことが一番好きなことが見ていてよく分かる。
そして、女子同士だから、俺が入り込めないところまで入り込めることがあるから、そこは正直悔しい。
だけど、瑞希のことが嫌いとか憎いとか、そんなことでは全く無くて、瑞希も瑞希で俺にとってはすごく大切な友達なのだ。
つまり、友乃のことは取られなくないけど、瑞希が離れていくのもそれはそれで嫌なのだ。
つくづく、自分で自分が面倒臭い奴だな、と思う。
「僕、面倒臭いね。」
「今に始まったことじゃないし、うちはみんな面倒臭い。」
僕が呟いた言葉に、凌が返事をした。
それもそうだ。4人ともそれなりに面倒臭い。
愛が重いとか、愛情表現が下手とか。
距離が近すぎる分、上手く言葉に出来ないこともあるし、逆に素直になり過ぎて言葉が悪くなることもある。
そして、それをいつまでも上手くコントロール出来ないのが俺たち4人の悪いところなんだと思う。
画面に映る敵の数はだんだん増えてきて、ふたりとも次第に無言になって行った。
こんな生活がまだ続けばいいんだけどな。
面倒臭い4人だけど、やっぱり1番楽にいられる場所だから。
「はい、終わり。」
「ここのエリア、相変わらず多いな。」
何とか全部の敵を倒し終えて、凌がコントローラーを置いた時、リビングの扉が開く音がした。
「ふたりとも、洗濯物。」
振り返ると、お風呂上がりの友乃。
バスタオルを肩から掛けて、ノースリーブにショートパンツ。
いつもこれ。
友乃は基本的に服を着るのが好きじゃないらしい。
でも、この格好をしてるのはお風呂上がりだけで、部屋に戻るとちゃんと服を着て戻ってくる。
一応、気を使っているらしいよ。
俺は立ち上がって友乃の方に向かったら、凌が俺を追い越して、友乃の前に立った。
友乃のバスタオルを取って、広げてからまた肩から掛けてあげていた。
「さすがに寒いだろ。」
「大丈夫よ。すぐ着替えるもの。」
「じゃあ、目のやり場に困る。俺が。」
そうやって、笑ってから凌はリビングを出て行った。
友乃は凌の背中を見ながら、首を傾げた。
「凌って、あんなこと言うんだね。」
友乃は凌が出て行ったリビングの扉を見ながら、僕に向かって呟くように言った。
僕も驚いた。
僕が何も言わないでいると、友乃は僕の方に振り返った。
「この服、ダメかな?」
「それはどういう意味で?」
「目のやり場に困る?」
僕は友乃の事を、頭のてっぺんからつま先までゆっくり見てから言った。
「可愛いから、いいと思う。」
「また。それじゃあ、答えになってない。」
そう言って笑った友乃は、リビングを出て2階の自分の部屋に上がって行った。
俺はその後を追って、脱衣所の方に向かう。
目のやり場に困る、か。
そんなこと思ったこともなかったな。
友乃はなんだって可愛いから。
凌は意外としっかり異性として見てるんだな。
勿論、俺だって見てるけどね。
凌の方が、俺より大人なのかもしれない。
脱衣場では、凌が自分の洗濯物を籠に入れ終えたところだった。
「理央の前で、いつもあんな感じなの?」
凌は僕を見るなり、そう聞いてきた。
友乃のことか。
僕は自分の籠を用意して、洗濯機から洗濯物を取り出しながら答えた。
「いつもは服着てるよ。みんなの前と同じ。お風呂上がりだけだよ、あの格好は。」
「そうなのか。流石に困るな、あれは。」
「可愛かった?」
僕が凌の方を向くと、凌は僕の方をちらっと見てから、少し俯いて小さく頷いた。
「何その返事仕方。中学生じゃないんだから。」
「だってさ、友乃だよ。毎日一緒にいるのにさ、今更恥ずかしいじゃん、なんか。」
凌の顔は少し赤くて、僕は、まじか、と思ってしまった。
「友乃も瑞希も、俺がそうやって見てなかっただけで、ふたりとも、着実に大人になってんだな。ちょっと、動揺したわ。」
凌はそう言って、脱衣場を出て行った。
そうなのかもしれない。
そして、僕と凌も着実に大人になってるんだと思う。
これは、あんまり考えたくないことだな。
大人になるとか、もう大人だとか、そういうことはここでは考えなくてもいいことだと思ってるから。
僕にとって、ある意味ここはネバーランドで、いつまでも高校生の時の4人のままで遊べる場所だと思ってる。
洗濯物の入った籠を持って、自分の部屋に向かった。
階段を上がりきったところで、友乃が自分の部屋から出てきた。
ちゃんと服を着ていて、いつも通りだ。
友乃は僕を見てから、僕の部屋のドアを開けてくれた。
「ありがとう。」
「うん。」
僕が部屋に入ると、友乃が部屋の電気を付けてくれて、そのまま僕の部屋に入ってからドアを閉めた。
籠を置いてから友乃を見ると、座椅子の上で体育座りをして俺を見ていた。
「何、どうしたの?」
「早く洗濯物干して。」
「なんだよ。」
「ご飯食べたいし、映画見たい。」
僕は友乃に呆れたように笑いかけてから、自分の洗濯物を干し始めた。
その間友乃はスマホをいじりるでも、僕の部屋にあるマンガを読むでもなく、ただ大人しく座ってるだけだった。
さっき、凌に言われたこと気にしてるのかな。
洗濯物を干し終わってから、友乃と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
友乃は、何も言わずに僕を見ていて、何か言って欲しいみたいだった。
「あんまり気にしなくていいよ。僕はどんな友乃も好きだから。」
そう言って友乃の頭を撫でると、友乃は僕から目線を外して少し俯いた。
何も言葉が返ってこなくて、僕はずっと友乃の頭を撫でているだけだった。
「もう大丈夫。」
やっと吐き出された言葉がこれだった。
でも、友乃の表情は全然大丈夫そうじゃなくて、僕はまだ友乃の頭を撫でることを辞めなかった。
凌のあの言葉は、友乃にとっては意外と心に刺さる言葉だったことが分かった。
異性として扱われたのが嫌だったのか、少し他人みたいな扱われ方が嫌だったのか。
具体的なことは分からなかったけど、友乃が嫌な気持ちになったことはよく分かった。
「どうする?凌も呼ぶ?」
「呼ぶって言ったんだから、呼ばない訳にいかないでしょ。」
「大丈夫?」
「大丈夫。凌、悪くないから。」
それもそうだ。
なんと思おうが、結局は友乃の自分勝手なんだと思う。
僕だったら、嫌だ、って言っちゃうなぁ、なんて思っていたから、友乃は僕よりは大人なんだと思う。
というか、みんな僕よりは大人か。
俺は友乃の頭を撫でてから、部屋を出てリビングに向かった。
3人分のご飯、僕が持っていけば、友乃はわざわざリビングに来なくて済むからな。
キッチンで3人分のご飯を用意してると、凌がリビングに入ってきた。
「友乃、部屋で待ってるってよ。」
「うん、3人分用意してるよ。」
「お、ありがとう。俺も持ってくよ。」
電子レンジから取り出した3人分のご飯をお盆に乗せると、凌が持って行ってくれた。
僕も後を追って、友乃の部屋に向かう。
その後は3人でご飯を食べながら、映画を見た。
友乃の機嫌は治ったのか分からなかったけど、今、隣で可愛い顔をして眠っているから、僕は少し安心していた。
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